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『スティル・ライフ』池澤夏樹

スティル・ライフ (中公文庫)
スティル・ライフ
池澤 夏樹/中公文庫
87年度中央公論新人賞、第98回芥川賞受賞作
ある日、ぼくの前に佐々井が現れてから、ぼくの世界を見る視線は変って行った。ぼくは彼が語る宇宙や微粒子の話に熱中する。科学と文学の新しい調和。清澄で緊張にみちた抒情性。「スティル・ライフ」「ヤー・チャイカ」2編収録
冒頭の一節でノックアウト…。いっぺんでこの作品のとりこになってしまいました。この静かなる、しかし内側から何か強い光線を放ったような眩しさ。そんな文体で物語は始まってゆきます。 “チェレンコフ光”という言葉が出てきますがこのチェレンコフ光に似た微弱なる青白い光が常に背景にあり、その光がこの物語の終わりへと導いていくような感覚で読みました。佐々井という一人の男との出逢いが、確実に主人公を変えていきます。この佐々井という人物。不思議な人です。定住を求めず、身の回りの物は最低限に留め、ふらふらと気の向くまま日々をやり過ごす。しかしその背景に抱えたものとは…。

人との出逢いというものはたとえその出逢いがちょっと肩が触れてすれ違う程度の軽いものだとしても、少なからずどこかしら自分に影響を与えるものだと思います。全くない場合もあるかもしれません。けれども稀に出逢った人の存在が今まで自分の形成してきたものを大きく改革させてしまう場合もあるかもしれません。今まで見えていなかった世界、音、光、暗闇でさえも違って見えてくるかもしれません。本当は自分の奥深いところで潜在的にあったものが人の出逢いによって、その人の影響によって現れ出すこともあるかもしれません。この作品によってそんなことを感じました。満天の星空の真下で闇に広がる海原に小舟を出し、目的を持たずにただ漂うようなそんな世界。時々夜空を見上げ、思考回路を遮断 した脳に何かが流れ込む感覚を覚える。その流れ込んだものが何なのか なんて追求しない。いつか思い出したときにあれはきっとこうだったんだ、というようにフッと感じるのがいい。自然でいい。
全体に散文的なイメージ。けれども詩的でもある。不思議な文体です。

時には自分の中に存在するもう一つの世界に呼応してみる平静な心を持った方がいいのかな。
「たとえば、星を見るとかして」

読了日:2000年1月10日
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