二枚舌は極楽へ行く 蒼井上鷹/双葉社
妻を事故で亡くした夫が、事故前夜一緒だった友人達の一人に妻の死の原因があると独り合点。謎の飲み物を飲ませて自白を強要する『野菜ジュースにソースを二滴』など、蒼井流コージー・ミステリー12編。
デビュー作『
九杯目には早すぎる』が気に入ってすぐに積読の山を崩し読み始めた。こういうときああ買っておいて良かった〜としみじみ思うのである。積んでおくのも悪くはないな(笑)
『九杯目には早すぎる』はブラックユーモアが洒落ていた作品だった。決して読後感は爽やかではないのだけど、その黒い笑いというものには不思議と魅力を感じる。特に捻りの効いた着地点が容易に想像出来ないような、出来ないどころかそんなの自分の頭の中にミジンコほどもなかったよ!なんて驚嘆させられ妙にはまる。
で、この『二枚舌は極楽へ行く』である。これがまた秀逸だったのである。前作とは一味違う味わいを楽しめて大絶賛のうちに読み終えたんである。
今回はシニカルな彩りを持ち、より本格化している。ミステリ色が色濃くかなり堪能できるはず。本格化といっても短編集ということもあり、そこに仕掛けられるものは大掛かりではないし、派手な演出もないけれども、そこここに散りばめられた伏線や繋がり、それを発見したときのほくそ笑み、いやいや油断はならぬぞとまた気を引き締め読み進み、最後で驚きと仕掛けを用意してくれていることに「やっぱり見抜けなかったかぁ」と悔しいながらも上質な作品に心底堪能している自分がいる。
短編全12編という豪華さ。ちょこちょこおつまみのようにつまんで読むには最適、なんて思いながら読み始めるもかなりの吸引力で引き込まれ、あれよという間に一気読みしてしまった。『九杯目には早すぎる』から読んでいればにんまりすること間違いなしのさり気ない演出も嬉しい。
それぞれ楽しめたのだけれども中でもお気に入りは、「野菜ジュースにソースを二滴」「待つ男」「ラスト・セッション」「懐かしい思い出」。「野菜ジュースにソースを二滴」は蒼井さん持ち味の"情けない男の滑稽さ"や、やがてじわじわくる何とも言い難い暗い感じが前作と引き続いて楽しめる。「待つ男」は謎がどう明かされるのかドキドキ。その謎が明かされたときの、そしてさらに待っていた仕掛けが素敵でかなりのお気に入り。「ラスト・セッション」はシリアスに仕立てられ、最大の謎が明かされていく展開はすごい。予想していなかったレベルの高さに感嘆のため息さえ漏らしてしまった。「懐かしい思い出」はショートストーリーなのだけどものすごく好みな作風。この居心地の悪さがたまらない。そして表題作の「二枚舌は極楽へ行く」もそのタイトルの意味を知った時の薄気味悪さに少し背筋をゾッとさせ、その結末に情けなさと哀れさを感じる。
用意されている驚き(時に驚嘆に変わる)や仕掛けは決して派手ではないけれど、そこに至るまでの物語の流れが絶妙で充分に満足して読み終えるのである。うんうん、良いよこれは。こちらも是非是非ご堪能あれ〜。
読了日:2007年1月7日
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『九杯目には早すぎる』感想(2007/1/6)
思った以上に面白かったです。久しぶりのミステリがこの作品で幸せでした。この作風はかなり好みです♪
『九杯目には早すぎる』『二枚舌は極楽へ行く』どちらから読んでも大丈夫とは思いますが、これから読む方は『九杯目には早すぎる』から読まれるといいかな〜と思います。楽しみも倍増するかと思いますので。
この2作を読んだだけでもいろんな引き出しを持った作家さんということが分かったので、これからが本当に楽しみです。
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