ひなたでゆるり

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『ドリーマーズ』柴崎友香

ドリーマーズ
ドリーマーズ
柴崎友香/講談社
目の前にある世界が、夢のように思える瞬間がある。いくつもの風景からあふれ出す、大切な誰かへのたしかな想い。現実と夢のあわいを流れる時間を絶妙に描く表題作ほか、ゆるやかな日常からふと外れた瞬間をヴィヴィッドに映し出す、読むたびに味わい深まる短篇集。

夢と現の曖昧さが不明瞭でいつもの柴崎さんの描く世界とは一味違う感覚。
しっかり生きている人間のそれぞれのドラマに中に時折差し挟まれる不可思議なこと。
私たちと変わらぬ普通の何気ない日常を切り取って淡々と描く中に見えぬけれども確かに指し示す方向に穏やかな光が在るのを感じるのです。
印象的だったのは、表題作「ドリーマーズ」。心許なく佇む父の姿がヒヤリと怖い。
「束の間」は好き。

名久井さんの装丁がこれまた綺麗です。暗闇を背景に彩り鮮やかな世界が幻想的。

読了日:2010年1月22日
かりさ | 著者別さ行(柴崎友香) | comments(2) | trackbacks(1) | 

『主題歌』柴崎友香

主題歌
主題歌
柴崎友香/講談社
この歌がここで歌われたことは消えてしまわない
聞こえてくる人の声、街の音 そして、誰かの心に響く歌がある
「女子好き」な女性たちのみずみずしい日常の物語
第137回芥川賞候補作(「主題歌」)
「主題歌」「六十の半分」「ブルー、イエロー、オレンジ、オレンジ、レッド」短編3作収録。

私の女子好きは女子高出身だからなのかな?と度々思っていたのだが、どうもそれは関係ないらしい。思えば子供の頃から可愛い女の子や綺麗な女の子が好きだったもの。
そしてそれは元女子になってしまった今でも変わらずで、今だって可愛いアイドルの子やモデルの子なんかを見るとうっとりしてしまう。それはこの「主題歌」に登場する実加とか小田ちゃんとか花絵とかと全く同じ感覚なの。
可愛い女性や綺麗な女性に会うと話してみたい、って思うし今声をかけないと勿体ない、って思うし、でも実際話しかけられるかといえばそれは出来なくて、それは実加が抱いた気持ちと全く一緒で、だから読んでいると「ああ、わかる!わかる!」と共感しっぱなし。
気になった女の子とおしゃべりできたらラッキーと思うし、友達になれたらそれはもう嬉しいし、そこまでの道のりって恋しているみたいにドキドキする。でもそれは変なものじゃなくてただ単純に「女子好き」ってだけの話し。

柴崎さんの上手さは本書でも隅々行き渡っていて、何気ない日常をこんなにキラキラと描いて読んでいて心地の良いこと。するすると流れる文章にゆったり身をまかせられる安心感がある。
この「主題歌」の面白いところは実加の一人称で語られるところから時々ふっとアングルを変えて実加を別の視点で見つめ、それがほんの数秒のことでまた語りが実加に戻るとか、そんな一瞬の空間のずれに始めは違和感があって少し躊躇させる意味を考えてもみるが、ある程度慣れると実加を別視点で見つめる瞳が実加をどう感じているかそれぞれの内面が表れて大変面白い。
ガールズトークだけでなく、実加の彼・洋治(この洋治くんがとってもいい。お土産ぶら下げて帰ってきたところとか私だってぎゅうってしたくなる)や実加の大学の後輩・森本が登場することで、ますます女子たちの輪郭を強くし、印象強くしているように感じる。

「女の子限定カフェ」の場面がまたいい。学生だったり、社会人だったり、未婚も既婚ももうすぐお母さんになる子も、いろんな立場であっても女の子は女の子で、好きな女の子同士が集まってわいわいするのっていいなぁ、ここに嫌いな女がいたら最悪だけどね、なんてまるで私がここに居て愛ちゃんみたくにこにこ笑ってみんなの話し聞いたり、時々話しに入ったりしてる気になってた。

森本の絵だったり、奈々子の写真だったり、小田ちゃんを祝う歌だったり、心からそれを好きと思えて大事に思えてずっとずっと大切に残って欲しいということ。とても強く響いて印象深かった。上手く書けないけどそれって大事なことで、でも忘れてしまいがちなことで、それを大切にしている彼らのことが眩しくてその芯の強さをいいな、って思った。

「六十の半分」「ブルー、イエロー、オレンジ、オレンジ、レッド」(同人誌「メルボルン」では「レッド、イエロー、オレンジ、オレンジ、ブルー」だったのだけど改題したのですね)はとても短い作品ながらその醸し出す作風には惹かれるものがあって、何度も何度も文章をなぞってしまう。何度も読むとまた違った印象が生まれて面白い。
「ブルー、イエロー、オレンジ、オレンジ、レッド」の青の場面が鮮やか。好き。

それにしてもこの装丁、綺麗だわぁ。
私はこの優しいピンク色を見るだけでキュンとなってしまう。

関連記事:【購入本】柴崎さんサイン本とか(2008/3/9)
かりさ | 著者別さ行(柴崎友香) | comments(8) | trackbacks(4) | 

『青空感傷ツアー』柴崎友香

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青空感傷ツアー
柴崎友香/河出書房新社
美人で高慢で愛すべき女ともだちと、彼女に言いなりな私。女二人の感傷旅行の行方は?

まずジャケットの美しさに目を惹かれる。広がる雲の向こう側では太陽が姿を隠していて、その光が雲の間から射し込んでいる。そこに散らばるのは白木蓮か。

美しかったり可愛らしかったりする人には本能的なものでしょうか、心惹かれます。それは男も女も関係なく。どちらかというと私は綺麗で可愛らしい女性につい惹かれてしまう傾向にあるようです。男性に求めるよりも女性に求めるみたいです。だからといってそこから恋や愛が生まれるではなく、やはり憧れの気持ちからくるようです。なので主人公の芽衣が女友達(友達なのか?と疑問になるけど)の音生の美しさ、可愛らしさに惹かれるのはとても良く分かります。面食いというのも少しわかります(笑)美しいというのはもう人間得したようなものだよなぁ、と子供の頃良く思ったものです。もうそれだけで人生得しているじゃないか、と羨ましくもありました。そんな時自分の容姿を見てがっかりし悲しくなったこともありました。私は損をしている。そんな卑屈な精神が支配していたこともありました。
音生は恵まれた容姿を持っていて、けれどもすごく高慢で。最初は「なんなん?この子?」と彼女のぞんざいな態度にイライラ。けれどもいつの間にか彼女の態度も自然に受け入れられるようになっていつしか可愛いと思えるようになってくるから不思議です。物事をハッキリ主張し、行動力もある。自分の行動に責任が持てず、自分で決めたことなのに後から後悔してうじうじする芽衣とは全く違う性格。音生に振り回されても自分で決断出来ない芽衣にとってはそれはたぶん楽なんだろうなぁ。だから迷惑と思いながらも抗うことが出来ない。ああ、まるで私自身を見ているようで芽衣の優柔不断さは音生の態度よりも問題視してしまいました。
でも芽衣はちゃんと自分の性格も理解しているし、どうにかしたいともがいているのです。見えないけれどちゃんと考えている。そのもどかしさがますます自分と重なって芽衣のことも放っておけなくなる。

芽衣の永井くんに向ける恋心だったり、目線だったり、その顔や腕に触れたいなぁと思うけれどもその一線を越えられないもどかしさだったり。好きだけど永井くんはどうなんだろう?その私に向ける笑顔に期待をしてもいいものだろうか…そんな芽衣の気持ちが聞こえてくるようでとても切ない。切ない、という感情はどうしてこんなにも苦しいのだろう。恋愛を描いていそうで実は恋愛小説とはちょっと違う感じ。柴崎さん独特の世界がとても心地良い。

芽衣と音生の旅。向かう先、その次に向かう先。感傷ツアーとは良く言ったものでこれだけ旅すればもやもやの心も晴れるんかなぁ。日常生活では目に出来ない風景が、その壮大さが自分をくるんと包んでくれるような包容力が次第に心を綺麗にしてくれるんだろうなぁ。だから人は旅をするんだろうか。ひょいっと日常から抜け出して見知らぬ場所へ身を置きたくなるんだろうか。

またまた柴崎さんの風景描写に心を奪われます。
池の向こう側には渡り廊下の屋根の上に枝を伸ばしている背の高い木があるけれど、暗いうえに冬で葉も花もないからなんの木かわからない。ガラス戸のすぐ近くでは、後ろから射してくる光に椿の赤い花がいくつか浮かび上がっていた。
ぼうっと浮かぶ椿の花。その赤い色が目の前に浮かぶようです。柴崎さんの作品には彩りがあります。それはハッとさせられるほどの鮮やかな色彩。ただ美しいだけでなく古ぼけた誰も見向きもしないような場所でも、何故か柴崎さんの手にかかると立ち止まってじっと見つめてしまいます。

私にとって柴崎さんの紡ぐ世界は日常の鬱屈さを洗い流してくれるものなのかもしれません。そう気がついたとき柴崎さんの作品が愛おしくてたまらなくなりました。

読了日:2007年2月5日
かりさ | 著者別さ行(柴崎友香) | comments(8) | trackbacks(2) | 

『また会う日まで』柴崎友香

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また会う日まで
柴崎友香/河出書房新社
好きなのに今は会えない人がいる……有麻は25歳OL。高校時代、修学旅行2日目の夜。同級生とのある記憶を確かめるため、約束もなしに上京。6日間の東京滞在で、有麻は会いたい人に会えるのか?とびきりの恋愛小説!

このつかみどころのないふわふわした感じ。でも胸の奥のほうがきゅぅっと締め付けられる感じ。手を伸ばせば触れられる距離にいるのに、でも、触れてみたいのかどうかすら分からない。何かが起こりそうで起きない柴崎さんの世界。絶妙である。

生まれ育った東京が舞台で、登場する街並みが懐かしくて読みながらホームシックになってしまい、何だか泣きたいような気持ちでいっぱいになってしまっていた。そんな気持ちと相まって自然とこの作品が、届きそうで届かないもどかしさと私の胸いっぱいに広がる切なさで彩られていた。
手を繋いだことも、抱きしめ合うことも、肌に触れ合うこともない関係。お互い一歩歩み寄っていればもしかしたら触れ合えたかもしれない微妙な距離。それを縮めるために主人公は大阪から東京へ向かったのだろうか。その人と何年かぶりに会って自分の気持ちとその人の気持ちを確かめてそれでどうしたかったのだろう。本人もわからない何かを形にしたかったんだろうか。
月曜日から始まる章はそのまま有麻の滞在期間1週間を綴っていくのだな、と分かる。その1週間という限られた時間でどうなっていくのか、どこかで期待している自分がいる。でも柴崎さんはやんわりとその期待を裏切るのだ。いい意味で。

本書の紹介文は私の読んだイメージと違っているので引用するのは気が引けたのだけど、突っ込むためにあえて引用。「とびきりの恋愛小説」と書かれているが、とびきりではないと思う。恋愛小説と決めつけてしまえるほど恋愛を書いているわけではない。ただほんのりと芽生えた恋が生まれ育たずにゆらゆら風に揺れて心許ない感じのお話し。そういう気持ちって実際何度も生まれてでもそれ以上は成長しなくて、でも萎むでもない、枯れるでもない、いつまでも胸の奥の奥のほうでそのままの形で残っている。時々ふっと思い出して切なさが支配するような。

日常に良くある、でも何気に見過ごしてしまう風景だったり情景だったりがある。その情景を上手く切り取って柴崎さんは私たちにこんなふうなんだよ、と見せてくれる。それは唐突に場面ごとに表れる。例えばこう。
ベランダの外には明るい夜の空気が広がっていた。光が溢れている街の曇りの夜空は、全体が白くぼんやり発光しているみたいで安心する。
いつでも何気なく見ているものを柴崎さんはとても上手く表現する。それは何の違和感なくすんなりするりと読み手の気持ちに浸透して穏やかにそれを受け入れる。するっと読んで後でハッとして読み返すような、柴崎さんの文章も優しくあったかくそこに、ある。

好きな人と歩いていてその人が私よりも先をスタスタと歩いていってしまう時、私はひどく悲しくなる。私のほうがいつも小走りになっていることに気がついたとき、何となく相手の気持ちが自分から離れているんじゃなかろうかと不安になる。そんな場面がここにはいくつもあって、私はまるで自分が有麻になったかのような錯覚に陥り悲しさが押し寄せる。きっと有麻もそんな気持ちだったんじゃないかな。そんなところに諦めの気持ちだったりを感じていたんじゃないかな。私の勝手な想像だけれども。

「また会う日まで」…タイトルの言葉は深い。読み終えて生まれる感情も納得が出来る。ああこういうの分かる。感じたこともある。けれどもそれが一体どんな感情なのか上手く言葉に表すことが出来ない。すくってもすくっても指の間をぱらぱら落ちてゆくように捉えどころがない。それが何かを追求せずこのままゆらゆら漂わせていていいのかもしれない。この感情は思った以上に懐かしく心地良いものなのだから。

読了日:2007年2月4日


初柴崎作品です。前々から気にはなっていたのですがなかなか機会に恵まれませんでした。柴崎さんの本はどれも装丁が美しくいつもじっと見つめてしまいます。本書もそう。そうして紐解いた柴崎さんの世界は思った以上に心地良く、関西弁も全く気になりませんでした。むしろもっと浸っていたい感覚。他の作品がどんな風なのかこれから読むのが楽しみです。嬉しい出会いをしました。
かりさ | 著者別さ行(柴崎友香) | comments(18) | trackbacks(7) |