夢を与える 綿矢りさ/河出書房新社
チャイルドモデルから芸能界へ。幼い頃からテレビの中で生きてきた美しくすこやかな少女・夕子。ある出来事をきっかけに、彼女はブレイクするが…。成長する少女の心とからだに流れる18年の時間を描く待望の長篇小説。
てっきり主人公の一人称だとばかり勝手に思っていた。読み始める前から。読み始めてそれが大きな勘違いだったことに気がつく。そしてもうひとつ。私は綿矢りさという作家をもしかしたらものすごく見くびっていたのかもしれない。それも大きな勘違いだったのだ、きっと。才能はあれだけに留まらなかったのだ。もっともっとさらなる高みに向かって花開かせていたのだ。読み終えてただただその驚きを隠せず呆然としてしまう。そしてたぶん才能はこれで終わらない。序章に過ぎないのだと固く信じて疑わない自分がいることを認めねばなるまい。
ここに紡がれたもの、行間から滲み出てその染みが広がり侵すような凄み。本当にこの作家が書いたのかどうか始めは疑心し、けれどもいつの間にかその作家の存在さえ忘れて没頭する。読む手をやめられない。この先にあるものを見届けずにはいられない。いずれ分かる結末をそれでも苦しい胸を抑えつつページを繰る作業をやめられずにいる。
気がつけば夜の闇に支配されていた空が白みはじめていた。最後の1行を苦々しく暗澹たる思いで読み終えた時、何かがずしんと乗っかり身動きできないような重たさを感じた。そうして綿矢りさという作家に凄みが加わったことに戦慄を覚える。
読者はこの作品を綿矢りさという作家の書いたものとは到底受け入れられずに途方に暮れるのだ。新しい形の綿矢さんの紡がれた世界。綿矢さんの新生への道の第一歩。それは成功の幕開けと私は思う。
夢を与えることとは…と綴る数行は深く胸を貫く。いつだって何かに気がつくときは何かを失っているのだ。その虚無感はじわじわと襲い、広がりを増すばかりなのだ。
読了日:2007年2月12日
うわ〜すごいの書いちゃったなぁ!というのが第一の感想です。もしかしたらこれも賛否両論分かれちゃうのかな、と思うのはやはりそういう意見をちらほら見るからです。けれども私はすごく好き。綿矢さんの新たな才能を絶賛しています。
でもこれは感想書くの難しかったです。どこまで書いていいものやら…と思案しながら書いていたら結局感想なんだか何やら分からないものになってしまいました。まぁいつものことです(笑)
本作品を読んでどうしても主人公・夕子と綿矢さんを重ねずにはいられませんでした。それは読者の勝手な想像なのですが、綿矢さんの登場はある意味社会現象になって綿矢さんはすっかりアイドル化され、著作品のヒロイン像と綿矢さん像が同一視されるようなイメージみたいなものが一人歩きして…それへの脱却みたいなものがきっとものすごく困難だったのかな、と。それが3年半という歳月だったのかな、なんて勝手に思っていました。「今までの文体を更新したい」と綿矢さんがおっしゃっていたのをどこかで読みましたが人知れず苦労されていたのでしょう。『夢を与える』で見事に更新したんではないかと思います。きっとまたこの内容を綿矢さん自身と重ね合わせてしまうのかもしれませんけれど、それも含めて受け入れられる強かさを身につけたのだなぁと綿矢さんの最近のインタビューなんかを読んで頼もしく思っています。
その類い稀なる才能と容姿に苦しめられることもあるかもしれませんが、綿矢さんにはもっともっと自由に書いて欲しい。何かにとらわれることなく自由にゆったりと。新たな一歩を私は大歓迎してますもの。
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