わたくし率イン歯ー、または世界 川上未映子/講談社
デビューと同時に激しめに絶賛された文筆歌手が魅せまくる、かくも鮮やかな言葉の奔流!リズムの応酬!問いの炸裂!“わたし”と“私”と“歯”をめぐる疾風怒濤のなんやかや!とにかく衝撃の、処女作。第137回芥川賞候補作。
大阪弁がつるつると澱みなく流れていくのを心地よく感じながら、でもここにあるものは決して心地よいものではなく、むしろ恐怖。女の独白がどこに向かっているのかわからないまま、それを不安に感じながら、あ、でもこの文体めっちゃ気持ちいい、なんて矛盾した感情を隣合わせにしながら、そうして突き進んだ先のアレ。
それが一体どんな理由なのか次第に明かされるものを苦々しく思いながら、女の狂気を一瞬感じゾッとした気持ちが段々と切なさで苦しくなっていく。
揺さぶられた感情が少しずつトーンダウンし、しんと静まりかえったところに響く空しさがいっぱいに広がってぱんぱんになってはち切れそうで、苦しい。
圧倒的な筆力がぐんぐん迫ってくる感覚がクセになりそう。
…いや、もうどっぷりはまったかも。
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えっと、読んですぐ忘れないようにとりあえずササッと書き留めた感想が上記。
いや〜書き留めておいて良かったかも。この作品読んだのが先々月?まだ猛暑厳しくて「暑い、暑い」を連呼していた頃。やっとここうして感想書けるようになりましたわ。
何たってこのタイトル。「なんじゃ?コレ?」なタイトルにだからこそ惹かれてしまったのだけど、読み始めて「なんじゃ?コレ?」がますます膨らんで、でもそれが妙に心地良くて読んでいくうちにすっかり著者の手中にはまってしまったというわけ。
まさかこういう結末に導かれていくとは思いもしなかったもの。そうして恐怖感が襲ってくるというか、鬱々したものに呑み込まれそうになるというか、自分だって本当のところはどうなんだろうか?とじわじわ不安になったりして。
あ。
今もう一回上記の感想読み返して思ったのだが、「切なさ」ってのはちょっと違う。切ないてのは安易すぎかも。切ないというよりも「哀れ」といったほうがしっくりくるかもしれない、この場合。哀れと思ってしまったらそれはもう同情になってしまうのかもしれないけれど、同情とはまたちょっと違ってここがどう表現すればいいのか難しいところ。
哀れで苦しいだなんてあまり感じるもんじゃないのだが、そんな新鮮な感情を呼び起こしてくれたところにもハッとさせられる要素があって、だからますますこの作品にどっぷり浸って魅せられてしまうのかもしれない。漠然とだけど。
文体が魅力的。文章にリズムがある。というか踊り狂っているというほうが的確か。最初はそのテンポに躊躇することなくついていけたのが、あるところを境に(真実が明かされ出した頃に)戸惑い、一瞬足を止め、この先を進むべきか迷い、やっぱり最後まで辿るべきと決め、辿りついた先のあのなんとも言えぬ妙な感覚。
ああ、これは病みつきになりそう。次作はどう出るか、今から楽しみなんである。
読了:2007年8月
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