チーム・バチスタの栄光 海堂尊/宝島社
東城大学医学部付属病院では、心臓移植の代替手術であるバチスタ手術の専門チーム「チーム・バチスタ」を作り、次々に成功を収めていた。ところが今、三例続けて術中死が発生している。しかも次は、海外からのゲリラ少年兵士が患者ということもあり、マスコミの注目を集めている。そこで内部調査の役目を押し付けられたのが、神経内科教室の万年講師で、不定愁訴外来責任者・田口と、厚生労働省の変人役人・白鳥だった……。
ああ〜!まずは一言叫びたい。ブラヴォー!と。
現役医師の書いたミステリー、さぞガチガチの医療もの?と想像していたのだが、開けてビックリ、読み進んでビックリ、ラスト過剰に興奮している自分にビックリ、さらにさらに興奮し過ぎたのか涙ぐんでいるアホな自分にビックリと、予想外のことに振り回されっぱなしであった。
第4回「このミステリーがすごい!」大賞作品である。受賞時のタイトルは「チーム・バチスタの崩壊」。今の「チーム・バチスタの栄光」に改題して正解だったろう。「崩壊」ではあまりに地味であり、たとえこれがこの作品を差す言葉であっても適切ではない。やはり「栄光」なのだ、良くも悪くも。
先述のガチガチの医療もの…序盤はガチガチほどではないにしろ、それでも術中死の内部調査という緊迫したイメージは漂わせていた。そして登場するキャラクターたちがそれを和らげてもいた。主人公・田口のその表向きとは異なる内心のユーモアさにふっと笑みがこぼれることもあった。だが、決して抱くイメージを払拭させるものではなかった。それがだ、中盤からある人物の登場でガラリと流れが変わるのだ。ガラリとである。物語が別物になってしまったのか?と錯覚するほどそれは変容を遂げる。その人物、名を白鳥。その風貌、性格、図太い神経、厚かましさ、全てにおいて変人奇人な役人である。抱腹絶倒。こいつ一体何者〜?
さて、ここでふとある人物が思い浮かんだ。精神科医:伊良部一郎。そう『イン・ザ・プール』(奥田英朗著)に登場する変人医師である。タイプは全く異なるが変人ぶりはそれを彷彿とさせるのである。
だがこの白鳥、やる時はものすごくカッコ良いのだ。意外にキレ者だし。終盤ある部分で彼のカッコ良さに思わず涙ぐんでしまったではないかー。あ、一応言っておきます、カッコいいのは外見ではありません。だってあのあだ名だし…(笑)
白鳥の登場で流れは変わりつつもミステリ部分はしっかりと描く。術中死は医療ミスなのか、事故なのか、それとも…。
印象的な言葉がある。「光が強ければ強いほど、闇は濃く、深い」
たとえ眩いばかりの栄光の元にいても、闇は必ずそこに存在する。一転光から闇に転じてしまうことは決して不思議なことではない。それは些細なきっかけでもある。まさにこの言葉がこの作品を表現するに相応しい。
さて、海堂さんが2作目を出すとしたらやはり田口&白鳥コンビものだろうか。それとも白鳥がまたどこかで活躍(?)する話しになるのだろうか。コンビものも是非読んでみたいけど、それだとフィールドが狭いだろうなぁ。…などと早くもシリーズ化を望む私なのである。
読了日:2006年5月18日
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