毒入りチョコレート事件 アントニイ・バークリー 高橋 泰邦/創元推理文庫
一見単純にみえる毒入りチョコレートによる殺人事件は、スコットランド・ヤードも投げ出すほどの難事件だった。その解決に乗り出したのは、ロジャー・シェリンガムを会長とする犯罪研究会の面々。六名の会員が、同一事件に対して示した六様の推理と解決策。本格推理文学の典型的手法を縦横に駆使した、アイルズ=バークリーの古典的名作。
今までにないミステリのあり方。これほどまでに終始堪能出来るミステリがあったとは。わくわくとページをめくり、犯罪研究会のメンバーが次々に発表する推理に頭の中が心地良くぐるぐる。そうして最後にはしてやられた!の清々しさ。ラストの締めくくりは最高。
ひょんなことでチョコレート製造会社から送られた新製品を貰い受けたペンディックス卿。それを夫妻で試食したところなんと夫人は死亡、夫は重症。それはチョコレートに毒が仕掛けられた毒殺事件となってしまう。警察は犯人を突き止められずこの難問題を「犯罪研究会」へ持ち込む。メンバー6人でそれぞれ推理と解決策を発表することになったが、さてその推理とは…。
この推理合戦が退屈なんじゃないか、と少々心配していたのだけれど、そんな心配は杞憂。読み進むごとに面白さが増し、自分も一緒に推理してみせる。ミステリを読むとき推理しながら読むほうではない私も触発されたか退化するばかりの脳をフル稼働しああでもない、こうでもない、と考えていた。
さて、この「犯罪研究会」は誰でも簡単に入会出来るわけではない。会員から提案された問題から一つ選び、答案を会長に提出、そこで会長が良しと判断した後秘密会にはかりここで会員が入会に反対か賛成か投票を行う。ここで一票でも反対票があれば入会は出来ない。大変な難関を見事潜り抜けた者だけがメンバーになれるのだ。現在在籍しているのは6名(定員は13名)。メンバーは小説家、検事弁護士、劇作家、推理作家、そして世間的には無名の人物で構成されている。優れた推理力と探偵能力を備えた者ばかり。その推理もそれぞれ説得力があり冴えわたっている。
この作品ですごいのはシンプルな事件に対して6つの推理と解決策を提示している点。これは味わいがいがあるというもの。推理って面白いなぁをしみじみと実感させてくれるのだ。二転三転する展開にこちらまで踊らされてしまったではないか。実際この人いかにもそれ(犯人)っぽいよなぁ、と思う人物がいて、でもそれはあり得ないんじゃないかとも思えて別の方向と犯人を考えていたが、最後の最後でその人物が犯人としてあげられる。それも断定的に決め付けない終え方がまた心憎いのだ。
どうやら本作品の原型は短編「偶然の審判」らしい。もしかしたらこちらを先に読んだほうが良かったかもしれない。「偶然の審判」は
世界短編傑作集3(創元推理文庫)に収録されているとのこと。これは是非読みたい!
いや〜やっぱり古典名作は面白い。まだまだ知らない世界があるのだなぁと思ったらこうはしていられない。これからも折に触れ紐解いていこう。
読了日:2006年3月16日
『毒入りチョコレート事件』を読むきっかけになったのが、『
愚者のエンドロール』(米澤穂信著)。なるほど、実際に『毒入りチョコ〜』を読んでみれば面白さは増す。こちらを先に読んでいたらさぞ『愚者のエンドロール』が堪能出来たことでしょう。古典は読んでおくべきだよねぇ、としみじみ感じているところです。
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