切羽へ 井上荒野/新潮社
静かな島で、夫と穏やかで幸福な日々を送るセイの前に、ある日、一人の男が現れる。夫を深く愛していながら、どうしようもなく惹かれてゆくセイ。やがて二人は、これ以上は進めない場所へと向かってゆく。「切羽」とはそれ以上先へは進めない場所のこと。宿命の出会いに揺れる女と男を、緻密な筆に描ききった美しい切なさに満ちた恋愛小説。
8月に読んで感想も書いていたのを今頃アップです…。
紹介文を読んでから本作を読んでいくと、何かを期待している自分がいて、でも期待は一向に訪れなくて戸惑うのだけど、読み終えて改めてこの作品の持つ雰囲気や流れを考えると、セイが夫以外の男性に惹かれるという感情は燃えるような熱いものではなく、もっとこう慎ましやかな感情という印象。
ほんのりと芽生えていてそれを自覚しているのかいないのか定かでないゆるやかな感情、そして静かにかき乱される様、その揺らめきを掬い取って感じ入る。そんな丁寧な読み方が一番相応しいのかも。
島の独特な方言がリズム良く読ませてくれて、濃密な人間関係も井上さんの小気味良い文体でさらさらと読ませてくれる。
移りゆく季節とともにセイの感情も移ろって、その淡い彩りが心の機微が見事に描かれていてその絶妙さに唸った。
セイと対照的な月江という女性がなかなか重要な役どころ。
彼女の奔放さがセイに少なからず心にさざ波を立てる。
「切羽」とは"それ以上先へは進めない場所"のことであり、"トンネルを掘る一番先端の場所"でもあります。この微妙な意味合いにセイの心の揺れを描く、この何ともいえない妙なるものに、静かな感動を覚えました。
井上荒野さんの作品は初めてでしたが、他の作品も是非とも読んでみたいと、切望させる読書でありました。
読了:2008年8月
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