巨匠とマルガリータ ミハイル・A・ブルガーコフ 水野 忠夫・訳/河出書房新社
モスクワに出現した悪魔の一味が引き起こす不可解な事件の数々。20世紀最大のロシア語作家が描いた究極の奇想小説。
いや〜これぞ読書の醍醐味。もう充実過ぎるほどの至福の時間をいただきました。
始めこの分厚さに慄き、えっと、これ読めるのかな?と心配でしたけれども、読み始めましたらば気難しそうな印象は気持ち良く払拭。
とある日の春のモスクワの公園、悪魔の一味の降臨にてその事件が勃発。
作家協会議長ベルリオーズとペンネーム<宿なし>の詩人・イワンがキリストの実在性について論じていると第三の男が登場し、不吉な予言を言い放つ。「ベルリオーズの首が切断される」と。その予言通りちょん切られ転がるベルリオーズの頭。
衝撃的な展開に目が離せなくなりまして、そのグロでファンタスティックな世界にすっかり魅了されてしまいました。
その後のめくるめく展開…ローマ総督ポンティウス・ピラトゥスの物語、黒魔術、しゃべる黒猫(シュールで可愛い)、魔女、大舞踏会、悪魔の圧倒的な存在感。
とにかく様々なジャンル盛り沢山で次々に現れる登場人物たち、彼らに降りかかる奇想天外な事件たち、次は一体何が起きるのか、物語の着地がどうなってしまうのか続きが読みたくてもう止まりません。
たぶん主人公なのであろう巨匠(それはタイトルで推察されるけれど、全くもって物語の知識がなかったので一体誰が主役なのかさっぱりな頭で読むから濃霧の中を歩いているみたいなふわふわ感でした)が登場するのは中盤に差し掛かる頃。ヒロインのマルガリータにいたっては後半になってようやく。
そこまでページ数でいえばかなり遅い登場になるのですけれど、これがその長さを全く感じさせず、そこにいたるまですっかり堪能させられているので、もう両手広げて喜んで受け入れてあげられる余裕さですよ。
こんなにも面白い奇想小説ですが、実際にはソビエト時代では長きにわたって刊行禁止だったそうです。禁書によって文壇から葬られてしまった巨匠、それはブルガーコフ本人であったのかもしれません。
自分の書いた作品が公にされることなく葬られることの無念さ、作品が活字になることへの切なる願いが、巨匠の物語が灰の中から奇跡的に蘇るというところに切々と感じてしまって切なくなってしまいました。
好きな書物を何ら制限なく読める奇跡とも呼べる幸せ、こんなにも恵まれていることに感謝せねば、と強く思ったのでした。
読了日:2010年1月11日
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