ひなたでゆるり

読書のコトとちょっぴり日々のコトブログ

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『卵の緒』瀬尾まいこ

卵の緒 (新潮文庫 せ 12-2)
卵の緒
瀬尾まいこ/新潮文庫
捨て子だと思っている小学校4年生の育生、妙ちきりんな母親、そのとぼけたボーイフレンド、不登校の同級生、血の繋がらない親子を軸に、「家族」を軽やかなタッチで描く。坊ちゃん文学賞大賞受賞作に書き下ろし1編を収録。
瀬尾さんのこれがデビュー作なんだ。と妙にしみじみとひたひたと感じ入ってしまった。瀬尾さんらしさというのがもうここから形成されていたのだなぁ、と。
瀬尾さんらしさってどんなん?って曖昧な表現に自分で書いて突っ込みたくなるけれど、う〜ん何というかな、瀬尾さんの描く家族ってすごく異質。良く考えたらあれ?と引っかかる部分満載なのだけれどでもそれが何の滞りもなくする〜と流れていくこの妙な感覚。異質な家族構成なんだけど何故か心地良く流れていて身を預けて読んでしまう。瀬尾さんの言葉、文章がひたすら温かく優しく包んでいるからなのだろうな、きっと。

表題作「卵の緒」はしかし実は私にとったら異質でもなんでもなかったりして。ちょこっとかぶるところがあってだからちょっぴり胸がきゅっとする部分があったのだけど、主人公・小学4年生の育生の母さんがね、すごく逞しい。そして育生への愛の深さに私はぐずぐず泣いてしまったよ。血の繋がりって何?そんなのが何?そんなんに負けないくらいの愛に繋がった家族だってちゃんと存在していて、その絆はどんな鋭利な鋏だって断ち切れない強さがあるんだ。そう大きな自信と誇りを持って。
母さんと育生に大きく関わっていく朝ちゃんもとても素敵。ああ、人を愛するって子や夫なんかの括りじゃなく人間を愛するというもっと大きな大きなものなのだなぁ。そしてどんなにあなたを愛しているかちゃんと折に触れ言葉で体で表現しなくてはいけないのだなぁ。愛を伝えるって黙っていたら絶対伝わらないもの。うん。

もう1編「7's blood」も家族の話だけれど、こちらもなかなかにつ〜んとくる素敵な作品だった。
七生がとてもいじらしくて。きっとそばにいたらぎゅっと抱きしめて離したくなくなってしまう。そんなくらいのいじらしい可愛らしさが七生にはあって。でもそれは生きるために身につけたもので。そこがまたそこはかとなく哀愁を帯びていてさらにさらに愛おしくなってしまうのだけど。
そんな七生の異母兄弟である七子は逆にそんな七生が鼻につきいじわるしてしまう。それでも一緒に寝起きし生活していくうちになくてはならない存在に変化していく。
「卵の緒」とはまた違ってここでは血の繋がりによってさまざまな軋轢に苦悩していく姿(とは言ってもそれほど苦悩する感じはないのだけど。これもサラリと描いてみせる瀬尾さんならでは)が見受けられてなかなかに複雑な感情が生まれる。徐々に心もつなぎ合わせていく頃、ある日突然やってくるのだ。それが。
それでも確固たる繋がりは何よりも強い。大丈夫、きっと大丈夫。誰に向けているのかわからないけれど私も確かな大きな頷きをひとつ、してみせる。
かりさ | 著者別さ行(瀬尾まいこ) | comments(12) | trackbacks(6) | 

『天国はまだ遠く』瀬尾まいこ

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天国はまだ遠く
瀬尾まいこ/新潮文庫
仕事も人間関係もうまくいかず、毎日辛くて息が詰りそう。23歳の千鶴は、会社を辞めて死ぬつもりだった。辿り着いた山奥の民宿で、睡眠薬を飲むのだが、死に切れなかった。自殺を諦めた彼女は、民宿の田村さんの大雑把な優しさに癒されていく。大らかな村人や大自然に囲まれた充足した日々。だが、千鶴は気づいてしまう、自分の居場所がここにないことに。心にしみる清爽な旅立ちの物語。

自分の存在意義、自分の居場所。人は常にそれを求めているのかもしれない。着々と歩んでいたはずでも時には立ち止まってしまい、たった一歩が踏み出ないことがある。足踏みさえも疲れ果て何故ここに自分がいるのだろう?と存在を否定しだす。壊す寸前にまで陥ることもある。そこからどう立ち直ればいいのか。ほんの少し背中をポンと押してくれるだけでいいのに…それだけでもまた小さく一歩を踏み出せるのに。

会社勤めが辛くなり生きることも辛くなり、死に場所を探して旅立つという冒頭。自殺願望のある主人公・千鶴。死を選ぶほどどんな辛いことがあったのか。
保険の外交員であった千鶴はその仕事がなかなか上手くいかず悩む。悩んで辞めたいのにその消極的な曖昧な性格ゆえに辞表を書くことすら出来ない。自分の存在する意味ってあるのだろうか?彼女は考える。ああ、危険だ、それを考えてしまったらもう後は滑り落ちるしかない。精神も弱ってしまった今答えはひとつしかない。死。この世から自分を抹消すること。これに捕らわれてしまったらそこから抜け出すのは容易ではない。

当て所もなく向かった先の民宿「たむら」を死に場所に選びとうとう彼女は実行する。が、自殺は失敗。失敗したら死ぬのが怖くなり実行するのをもうやめてしまう。それからの彼女の心の変化、回復していくさまが描かれる。
氷結した心が溶けて温かいものが流れていくように千鶴は変化していく。がんじがらめに捕らわれていたものが少しずつゆるゆると解されていく。それは土地の人々の生きるためだけのシンプルな生活であったり、素朴な温かさであったり、自分が生きるために命をもらうことだったり、そんな今までの生活では決して得られなかった体験が生きることへの貪欲さを生み出す。
田村さんもその内にいろいろと抱えながらも今自分の成すべきことをしっかりと見据え生きている。そう、生きるのだ。何が何でも生きるのだ。この世に生を受けた以上この命の灯が消えるまで生を全うするのだ。それが人の定めであるのだ。

千鶴の今の強さがあればこれから先どんなことがあっても今度は死を選ばずにいてくれるだろう。そしてその心に芽生えた淡いものが育っていくといいな、と願う。


瀬尾さんの作品は『幸福な食卓』『図書館の神様』の2作を読んでいて、どちらもじんわりと沁みる作品で大好きです。そして今回選んだ『天国はまだ遠く』も瀬尾さんならではの温かさが感じられてとても良かった。
瀬尾さんの紡ぐ文章は時々ちくちくと痛むことはあるけれど、一方でほこほことした温かさがあり、次第にこちらまでその温度が伝わりぽかぽかしてくるのですよね。
けれども…正直今まで読んだ作品と比べると設定の甘さだったり(自殺ではなくもう少し違う描き方をして欲しかった)、千鶴の再生期間が少し早すぎるんではないかと思ったり…あんなに悩み苦しんで死を選んだ人間がそんなに簡単に立ち直るだろうか、人の再生ってこんな簡単なもんじゃない、とどこかで否定する自分がいたのは確か。そんな風に思ってしまう自分と、どこまでも優しく温かい瀬尾さんの世界に心地良さを感じている自分がせめぎ合っていました。でもとても温かで素敵な作品でした。
かりさ | 著者別さ行(瀬尾まいこ) | comments(6) | trackbacks(5) | 

『図書館の神様』瀬尾まいこ

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図書館の神様
瀬尾まいこ/マガジンハウス
アクシデントで夢をあきらめ、傷ついた心を抱え、国語教師としてある高校に赴任したヒロイン清(きよ)。彼女が学校の図書館で出会ったひとりの男の子、垣内君。どこからでも海の見える明るい高校で、瑞々しい物語が始まる…。

清く正しく生きることに重きを置く、清(きよ)。正義感に満ち溢れそれを信じて疑わない少女にしかしそれを打ち砕く事件が起きる。それでも少女の頃に打ち込んだものはキッパリ忘れられない。どうにかして繋がっていたい一心で高校の講師になる。どうでも良いのだ、特に指針があるわけじゃない。そんななげやりな清。正義を語ろうにも語れない。
やりたくもない仕事をいい加減にこなしている。
だらしない恋愛におざなりに埋もれている。

清さと正しさが薄れてしまった結果がこれなのだとしたら、何て安易な選択なのだ。そんなとげとげした気持ちで読んでいる自分に気がつきながらも振り切れず悶々と読む。きっぱりと過去を振り切れるほど強い人間はそうそういない。誰しも何かを引きずって生きている。清がどれほどそれから断ち切れずにいるか、もう少しすると分かる。そこに差し掛かり徐々に事情が分かると、とげとげがいつのまにかまんまるくつるつると穏やかに変化している自分いた。そんな自分を感じたとき、これが瀬尾さんなんだ、と妙に感じた。何がどうとか言えない漠然としたもの。ふわりと舞い降りる優しいもの。

清は宙ぶらりんな自分をごまかすかのように浅見さんを愛する。責任のない付き合い。こんなところに清の心許無さがうかがえる。しかし浅見さんは清が必要とした時、清を一番として駆けつけてくれはしないのだ。そうしておいて残酷な言葉をどんどん発する。それが澱となって積もるごとに悲しいかな、逆にますます離れられなくなる。しかし、不本意にも文芸部の顧問になり垣内くんに出会ったことが清の転機となる。文学を知り、その奥深さを感じることにより自分を見つめなおし、認め、一歩を踏みしめる力もみなぎる。そしてそれを見守る弟の拓実くんも魅力的なのだ。

瀬尾さん作品はこれで2作目。最初に読んだ「幸福な食卓」があまりにも衝撃的で深い痛手を負ったので(かなり深刻だったのだ、私は)少し時間を置いたほうが良いと判断、その後古書店で本書を見つけ購入してからもまだ読めず、ようやく数ヶ月後手にとることに。久しぶりに瀬尾さんの文章に触れてみて、最後まで読んで、あぁやはりいいものを書くなぁとしみじみした。唐突に目に飛び込んだ手紙にこれまた唐突に涙が溢れ字が滲んで霞んだ。だから瀬尾さんはずるい。こんな風に最高の結末を用意するんだから。清がこれからどんな文学に出会い、それをどう授業に活かすのか。清先生のこれからがとっても気になる。いつかまた彼女や彼らに出会えたらいいな、と思う。

読了日:2005年9月24日
かりさ | 著者別さ行(瀬尾まいこ) | comments(21) | trackbacks(10) | 

『幸福な食卓』瀬尾まいこ

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幸福な食卓
瀬尾まいこ/講談社
「大きなものをなくしても、まだあった、大切なもの。」
とっても切なくて、ちょっとおかしくて、あったまる。 いま最注目の作家が放つ、心にふわりと響く長編小説!

油断してた。こんなはずじゃなかったのに。
まさにツボに入ってしまいもう涙が止め処なく溢れてどうしようもないまんま本を閉じました。どうしてこういう展開にしてしまうんだろう、と瀬尾さんを呪いながら(笑)でもこれはやっぱり必然だったんだろうと思い直し。それでも違う方向があったはずだ、と思えて仕方ありませんでした。

冒頭から面食らいます。今まで当たり前にしていたことを突然やめてしまう。ここにある家族は外から見たら風変わりでおかしいのだけど、当人達はこれが当たり前で、それを幸福として過ごしている。けれどもその根底にあるものは触れると今にも潰れてしまうそうになる儚いもので、その不確定さゆえに朝食の食卓という法則性を変えられずにいる。それが徐々に崩れていくことはこの家族にとって必要なことなのだ。

役割を放棄することは無責任なこととは思わないけれども、その役割を与えられることによって家族は成り立っていられるのだなぁ、と改めて感じる作品でした。著者は中学校の現役国語教師であることを納得させられる、実に美しい文章。優しく温かい中に力強さや勇気が織り込まれている。だからこそここに生きる人たちの困難や悲しみもあっけらかんと明るく前向きに見えるし読み手もそれに感化されるのだろう。主人公・佐和子の成長と共に読者も何かしらの成長をしているはず。これこそ子供に読ませるべき本なのだろうと思う。

当分私はこの佐和子を思って時々涙してしまうんだろうと思う。

読了日:2005年5月28日
かりさ | 著者別さ行(瀬尾まいこ) | comments(8) | trackbacks(11) |