ひなたでゆるり

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『敵影』古処誠二

敵影
敵影
古処誠二/新潮社
昭和二十年八月十四日、敗戦の噂がまことしやかに流れる沖縄の捕虜収容所で、血眼になって二人の人間を捜す男の姿があった。一人は自らの命の恩人、女学生の高江洲ミヨ。もう一人はミヨを死に追いやったと思われる阿賀野という男。男の執念の調査は、やがてミヨのおぼろげな消息と、阿賀野の意外な正体を明らかにしていく。
「本当は存在しない敵の姿を、なぜ人は必死になって追い求めるのだろう。」

終戦を迎えてなお人は敵に怯え、その影に悪夢を見る。戦はその中はもちろんだが、終わっても苦痛が付きまとう。生き残ってしまったという恥、顔向けが出来ないという申し訳なさ、彼らの気持ちは現代に生きる私には到底理解できず、ただただ想像するしかない。

終戦を迎えても憎しみは消えず、敵国に向けられたその憎しみは矛先を変えその相手を探す。それは己であり、かつての味方であり。報復せねばこの気持ちは晴れないと、たとえ「私刑」を実現したとしてもまた新たな憎しみとやるせなさを生むだけなのにそれでもそれをせねば自分を律することさえ出来ない。行き場のない感情がそうさせるのか。
戦いを終えてもなお平和は未来彼方に影さえ見えず。

主人公の元軍曹、今は米軍の捕虜となっている近藤義宗という男。彼の探す二人の人物。何故彼は二人を探さねばならないのか?その一人、恩人のミヨという女学生。もう一人、そのミヨを死に追いやったと言う阿賀野という男。ミヨの生存は絶望的と半ば諦めているのに探さずにはおれない。阿賀野の生存も必死に探す近藤の姿はやがてその正体に意表を突かれる。そうか、そうせねばならなかったのか。理由を知って愕然とし、哀れさとやり切れなさで胸がいっぱいになる。

日系2世の梶原と、班長である寺谷が特に印象的。寺谷の言葉ひとつひとつがズシンと響いてそんな彼が好ましい。

古処さんの描く戦争はその醜い描写にも真摯に見つめることが出来る。いつでもそこには端正な言葉や文章があって、だから私はそれに救われるようにして古処さんの世界に佇むことが出来る。目を背けてはいけないことにどうしても背いてしまい、近づくことさえ出来なくなっていた戦争文学というジャンルにも古処さんならばちゃんと目を見据えていくことが出来る。だから、たぶん、私は古処さんの作品を遅々としながらもちゃんと足跡をつけて追いかけていく自信がある。

「生き残った不誠実な者は、将校に罪をなすりつけ、軍に罪をなすりつけ、国に罪をなすりつけ、他人に罪をなすりつける。」
"敗戦国の必然"−これはいつの時代もいつの世も変わらないのだよな、しみじみと、思う。
最後、降伏に抗う男たちの姿と、生きるためよと逞しい姿を見せる女たち。
鮮烈な印象。ずっと焼きついて離れない。

読了日:2008年1月14日


先月、直木賞選考日前に読み終えていた『敵影』。ようやく感想を書きました。
丁寧に読み、でも読み終えてすぐには感想を綴れず、少し時間を置き、その時間自分の中で熟考。この時代に生きた者のその人々に思いを馳せてみました。
堂々巡りのその思いや考えは結局着地点は同じで進歩していないのだけど、でも考えないよりはいくらか成長しているよね、と勝手に自分で満足してみたり。
なかなか自ら飛び込むことの出来ない戦争文学なのですけど、それでも古処さんの作品は少しずつでも紐解いていきたいと思います。ゆっくりとですが。
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『アンノウン』古処誠二

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アンノウン
古処誠二/文春文庫
自衛隊は隊員に存在意義を見失わせる「軍隊」だった。訓練の意味は何か。組織の目標は何か。誰もが越えねばならないその壁を前にしていた一人の若い隊員は、隊長室から発見された盗聴器に初めて明確な「敵」を実感する…。自衛隊という閉鎖空間をユーモラスに描き第14回メフィスト賞を受賞したデビュー作。

祝『UNKNOWN』文庫化!メフィスト賞受賞作&デビュー作。講談社ノベルスから刊行された本書が何故か文春から文庫化。やはり講談社ノベルスから出た『少年たちの密室』も『フラグメント』と改題され新潮から文庫化されたのですよね。

この朝香二尉シリーズは殺人の起きない自衛隊内部を舞台にしたミステリ。自衛官の生活ぶりも事細かに書かれています。そこは元航空自衛官の著者ならでは。派手さはないけれども自衛隊という一般人がなかなか覗けない閉鎖的な内部をユーモラスを交えて描く。へぇぇ!ほぅぅ!となるわけです。ええ。
ということで、端正なミステリを是非堪能あれ!
以下過去の感想再掲。
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舞台は航空自衛隊基地。その最も侵入不可能なはずの部屋に盗聴器が仕掛けられていた。一体誰が、何故?そこへ現れたるは、防諜のエキスパート・防衛部調査班の朝香二尉。主人公の野上三曹がその補佐役として任命されることに。

まず、舞台が自衛隊基地というのが新鮮です。折り目正しい正統派ミステリィの印象。その閉鎖的な基地という内部で起きてしまった事件を朝香二尉がどう解決するか…。社会というものはそこに属すとき逃れられないのが組織です。その最たるものが自衛隊かもしれません。例え身内(この場合は同業者)であろうと機密事項は一切他言しないことを要求され、またそれを遂行する。さぞストレスのたまる職場でしょう。ここに起きた事件の発端も何とも形容しがたい切なさ。大きなどんでん返しよりも淡々切々とした展開。だからより一層の切なさを感じました。内部の細かな所まで描かれていて興味津々。キャラも魅力的です。

主人公の野上三曹の内面の成長ぶりが見事に描かれていて、温かくこれからを見守っていきたくなります。これ、朝香二尉のシリーズ化を望みます!まぁそうそう調査班が活躍するようではダメなんでしょうけれども。コーヒーがひたすら飲みたくなります。とにかく、私的には沸々となにかが沸き起こる感覚がして、非常に面白かったし、大好きな作品です。

関連記事
『UNKNOWN』(2000/4/17)感想
自衛官の階級についてはこちらを参照→防衛庁サイト:自衛官の階級


初読の時と今とでは自衛隊や自衛官に対する認識が変わっているので、今のほうがより一層楽しめましたし、当時とは感じた部分も少し違っています。それは再読ということもあるだろうし、6年という歳月の中で自分自身の変化によるものもあるんですよね、きっと。何はともあれ、大好きな作品であることは変わりありません。
現在は戦争もので著名な古処さんですが、ミステリももっともっと書いて欲しいなぁ、と切に思います。
本書をお気に召されたら朝香二尉シリーズ第2弾『未完成』も是非どうぞ。こちらは小銃消失事件を始め、さまざまな問題を取り上げており読み応えあります。
3作目を待っているのですが…もう書かれないのかなぁ。
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『遮断』古処誠二

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遮断
古処誠二/新潮社
置き去りにされた子供を捜して戦場を北上する。生きているはずがない赤子のために命を賭けたのは、なぜか。極限下で、人は何を「信じる」ことができるのか?

古処さんの『ルール』が刊行された時、それまで著者が書かれてきたミステリとは全く違うジャンルに戸惑った。正直苦手分野である。小学生の頃読まされた『対馬丸』という作品があまりにも残酷で当時の私の年齢と同じくらいの子供たちがアメリカ潜水艦の攻撃により散りゆくさまに衝撃を受け、しばらく食事が出来なくなった。どんなにか苦しんだろう、痛かっただろう、と小学生なりの想像を精一杯し、鬱々と過ごした。その傷がわずかながらまだ疼いている。したがって戦争ものは拒否反応を起こす。(今では)わずかながらに、だが。
それからも何作品か読む機会はあった。折り重なる死体、そこにわく白いもの、焼け野原、無残な描写がさらに私を鬱々とさせる。完全なトラウマであった。

しかし、『ルール』は戦争ものだが今まで読んできた、読めと言われたものとは一味違った作品であった。苦手としながらも貪るように読んだ。人としての尊厳が崩れた時、人は一体どうなるであろうか。戦火を潜り抜ける兵士たちの心理描写が見事であった。心が震えるという感覚を初めて実感し、味わった。意識せず流れるものに戸惑いつつも無駄のない端正な文章にどれほどこの熱くほとばしるものを引き出すのだろうかと頭の奥で考えていたりした。実に素晴らしい。これほどの作品を書いてくれたこと、そして読めたことに感謝した。そして『ルール』以上のものはもうないのではないか、とさえ思った。『ルール』を越えるものを読みたい気持ちとそうでない気持ちがせめぎ合い、以降刊行された著者の作品を読めずにいた。別の拒否反応が起きてしまったのだ。

それから4年後。今こうして『遮断』の感想を書いている。いつしか薄れた拒否反応がわずかながら残っている事を自覚しながらも、手に取ろうと気持ちが動いた。かつて沖縄で起きたことを受け止めようと心して読み始めた。相変わらず無駄のないさらに均整のとれた端正な文体が懐かしく迎えてくれた。そうしてどっぷり入り込んだ。あの時と同じく寝食を忘れる勢いで貪るように読んだ。

防衛隊を逃亡した19歳の真市は戦友・清武の妻で幼なじみのチヨと再会する。そのチヨの手には抱かれているはずの赤ん坊の姿がなかった。どうやらはぐれたらしい。真市とチヨはその赤ん坊を捜すため部落へと戻る。
この戦火の中、乳飲み子が生きているはずがない。だが子を失った母親にそんな常識など通用しない。この手に再び子を抱くまで信念を捨てない。それが母親である。この揺るぎないものは何だろか。はたから見れば気が狂っているとしか思えない。が、母親ならばチヨと同じことをするだろう。そしてこの身をいとわず子に投げ出すだろう。この子のためならば命は惜しくない、とそれはもう理屈ではないのだ。その一念が胸を打たれる。

作中に差し挟まれるある人物からの手紙が、か細いながら一筋の希望の光となって読者を導く。一縷の望みを捨てずに行くチヨに引き付けられていく。子は生きているのか?生きているはずがないだろう、と思いながらどんどん先へ先へと導かれていく。その先に待ち受けるものをやがて理解するときの思いはどう表現すればよいだろう。

赤ん坊を捜し北上する途上出会った片腕と片足を失くした少尉。その少尉に銃を向けられ強制的に行動を共にすることになる。この少尉の存在が圧巻である。軍人らしいといえばらしい揺るぎない信念を生きるか死ぬかの瀬戸際でも捨てない。子を生きていると信じて疑わないチヨと同じく。絶対に相容れない真市と少尉の最後のやりとり。そして少尉の靖国への言葉は重かった。それまでただただ息をのむように感情を伏して文字を追っていたが、ここで一瞬にしてたがが外れ視界がぼやけた。いつしか味わったほとばしるもの、心の震えが再び襲った。それでも読む意識は止まらない。溢れるものを拭いもせずに読む、読む、読む。まるでそうしなくてはならないとでもいうかのように。何かに突き動かされるように読んだ。そのまま休むことなく最後まで。

「お前が責任を持って苦痛から解放してやれ」…この言葉の重み。その意味。たったこの一言は実に重い。極限状態において崩れ去ろうとする人間としてのモラル。最後までそれを保った少尉だからこそ放つことが出来た言葉である。それは真市にとっては切っ先のごとく深く深く射抜く言葉でもあっただろう。

最後、真市の言葉が痛く辛い。親である私にとってはなおさら。しかし、真市よ、それに幸せを感じるのはあまりにも寂しくはないか。幸せと信じる彼の姿が寂しくてならない。その哀れみにも似た感情はいつまでも沈殿し留まり続ける。

関連記事
『ルール』感想(2002/5/28)

読了日:2006年7月6日


先日発表された、第135回直木賞候補作にこの『遮断』が選ばれました。いつか読もうと買っておいたこの作品を今回急遽紐解くことになりました。相変わらず戦争を題材にしたものは苦手です。あまりにも自分がこの重たさに絡め取られて浮上することが出来なくなってしまうから。今読み終えてやはりこの作品の意味を反芻し続け立ち止まり続けていますが、やはり読んで良かった。読むべき作品でした。
「戦争という極限状態の下で、人は何を「信じる」ことができるのか?」…それは今の私には到底答えられるものではありません。同じ状況になってみなければその答えは出ないだろうし、簡単に口に出来るものでもありません。ただその答えを探し続ける事は出来るでしょう。
本当に素晴らしい作品です。好きな作家さんだから…という理由ももちろんありますが、こういう作品こそ直木賞に選んで欲しい。今一度戦争のこと、沖縄のこと、靖国のこと、考えてみるべきなのかもしれません。

古処さんの『ルール』以降の作品、『分岐点』『接近』『七月七日』少しずつですが、紐解こうと思っています。
かりさ | 著者別か行(古処誠二) | comments(12) | trackbacks(13) | 

『ルール』古処誠二

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ルール
古処誠二/集英社
終戦間近のフィリピン戦線。鳴神中尉率いる小隊の敵は、アメリカ兵でもゲリラでもなく、「飢え」だった…。メフィスト賞を受賞して注目を浴びた著者が書き下ろす、「若い世代のための若い世代による」新しい戦記文学の登場。
生きることが最も困難だった時代生きることが最も困難だった場所で
第二次世界大戦のフィリピン戦線。日本軍の姿を描く作品だそうで、正直苦手分野。しかし、古処さんの作品ということで、その課しているものを心して読む。そして読了後、体が震えて震えてしかたなかった。ある箇所でいきなりガンッと頭殴られたような衝撃を受ける。涙こらえるのに必死だった。戦争ものだけど戦争ものじゃない。人としてのルールとは何か?そしてそれが崩れるときどうなってしまうか。ある意味人間として尊厳との戦い。紙一重の明暗。タイトルの「ルール」…重すぎます。
装丁が本当に素晴らしい。どこからどうみても良い出来だと思います。
(すみません…これ以上言葉が浮かびません)

読了日:2002年5月28日
かりさ | 著者別か行(古処誠二) | comments(6) | trackbacks(1) | 

『少年たちの密室』古処誠二

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少年たちの密室
古処誠二/講談社ノベルス
東海地震で倒壊したマンションの、地下駐車場に閉じ込められた六人の高校生と担任教師。暗闇の中、少年の一人が瓦礫で頭を打たれ死亡する。事故か、それとも殺人か? 闇の中の殺人事件。
下手くそな推理小説にうんざりしている人に。−恩田陸(帯より)
ものすごい高揚感と、興奮に包まれながらページを繰っていました。前作『UNKNOWN』とはガラッと違った印象。本格ミステリィに織り込んだ問題提起も現在巣くう学校問題や少年犯罪、教師のあり方を問うています。あくまでもミステリィです。しかしミステリィだからといってサラッと読み過ごせない重い闇に包まれています。読後もしばらく考え込んでしまいました。

所々違和感(伏線)を感じたものが、終盤に差しかかるにつれてまるでパズルのようにピタリ、ピタリとはめ込まれていく感覚も最高です。無駄のない、スーッと心地良く入り込んでくる端正な文体。静かなるその文体でもなお血潮を沸かせる興奮感を誘ってくれます。今の日本の学校教育のあり方として背けることの出来ない内容です。
ラストの喩えは少なからず闇に突き進むだけでなく、その先に明るい陽射しが差し込むはず…著者のそんな願いもきっとこめられているかと思います。

読了日:2000年9月16日
かりさ | 著者別か行(古処誠二) | comments(0) | trackbacks(0) | 

『UNKNOWN』古処誠二

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UNKNOWN
古処誠二/講談社ノベルス
侵入不可能なはずの部屋の中に何故か盗聴器が仕掛けられた。密室の謎に挑むのは、防諜のエキスパート・防衛部調査班の朝香二尉。犯人の残した微かな痕跡から、朝香は事件の全容を描き出す。 第14回メフィスト賞受賞作 熱く端正な本格ミステリ
舞台は航空自衛隊基地。その最も侵入不可能なはずの部屋に盗聴器が仕掛けられていた。一体誰が、何故?そこへ現れたるは、防諜のエキスパート・防衛部調査班の朝香二尉。主人公の野上三曹がその補佐役として任命されることに。

まず、舞台が自衛隊基地というのが新鮮です。折り目正しい正統派ミステリィの印象。その閉鎖的な基地という内部で起きてしまった事件を朝香二尉がどう解決するか…。社会というものはそこに属すとき逃れられないのが組織です。その最たるものが自衛隊かもしれません。例え身内(この場合は同業者)であろうと機密事項は一切他言しないことを要求され、またそれを遂行する。さぞストレスのたまる職場でしょう。ここに起きた事件の発端も何とも形容しがたい切なさ。大きなどんでん返しよりも淡々切々とした展開。だからより一層の切なさを感じました。内部の細かな所まで描かれていて興味津々。キャラも魅力的です。

主人公の野上三曹の内面の成長ぶりが見事に描かれていて、温かくこれからを見守っていきたくなります。これ、朝香二尉のシリーズ化を望みます!まぁそうそう調査班が活躍するようではダメなんでしょうけれども。コーヒーがひたすら飲みたくなります。とにかく、私的には沸々となにかが沸き起こる感覚がして、非常に面白かったし、大好きな作品です。

読了日:2000年4月17日
かりさ | 著者別か行(古処誠二) | comments(0) | trackbacks(0) |