ひなたでゆるり

読書のコトとちょっぴり日々のコトブログ

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『こちらあみ子』今村夏子

こちらあみ子
こちらあみ子
今村夏子/筑摩書房
少女の目に映る世界を鮮やかに描いた第26回太宰治賞受賞作。書き下ろし作品『ピクニック』を収録。

あみ子、と呼んでそっと抱きしめたくなる。
あの子と遊ぶための色褪せたトランシーバーをあみ子はまだ大切にしているだろうか。
「こちらあみ子。おーとーせよ」と発する言葉に誰かが応えてくれているだろうか。
悪気はない、わかってはいても人を苛立たせ、家族の輪も壊してしまうあみ子の言動は、ただのお話とは割り切れないぼんやりした痛みを伴う。
改題される前の「あたらしい娘」のタイトルが知らせてくれるように、母の気持ちが痛いほど伝わって、でもどうしようもなくてただただきゅっと胸が締め付けられる。
あみ子の世界。全てが愛おしい。

もう一編「ピクニック」も不思議な七瀬の雰囲気が不思議であわあわしていて周りがいつの間にか取り込まれるさまが良かった。好感。
装丁の土屋仁応さんの作品の儚い美しさが、あみ子の純真で透明なイメージにぴったりでとても素敵。
見返しのデザインも綺麗です。

読了日:2011年11月18日
かりさ | 著者別あ行(その他) | comments(0) | trackbacks(1) | 

『月のさなぎ』石野晶

月のさなぎ
月のさなぎ
石野晶/新潮社
森の中の学園に隔離されて育った、性別のない子どもたち。成人するにつれ性別が確定し、ひとり、またひとりと巣立っていく。年に一度の降誕祭を前に「学園の貴公子」と称される薄荷は、外界から侵入してきた少年と恋に落ちた。森への逃避行、フラッシュバックする記憶。17歳の身体と心は、意思とうらはらに変わりはじめる…。第22回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作。

美しく花開く蝶へと夢見るさなぎ。
カリッとその殻を破いて外の世界へ飛び立つそれは期待に胸膨らませているのか、それとも未知の不安に包まれているか。
月童子と呼ばれ特殊な体質故に隔離される子供たち。
成人するまで性の定まらない不安定さ、思春期の淡い恋の揺らめき、やがてその身体に宿す匂い立つような色香の美しさが繊細に丁寧に描かれており、幻想的でかつミステリ仕立てのとても好みの世界観。
芽生える仄かな恋心から、色濃く湿度を帯びた愛を知った時の刹那さが痛々しく限りなく切ない。
読み終えてなお離れがたい魅力に溢れた作品でした。

読了日:2010年12月14日
かりさ | 著者別あ行(その他) | comments(0) | trackbacks(0) | 

『天地明察』冲方丁

天地明察
天地明察
冲方丁/角川書店
江戸、四代将軍家綱の御代。ある「プロジェクト」が立ちあがった。即ち、日本独自の太陰暦を作り上げること--日本文化を変えた大いなる計画を、個の成長物語としてみずみずしくも重厚に描く傑作時代小説!!

読み終えたのが7月と初夏の頃なんですが…とても素晴らしい作品だったので感想今更ですが記録します。

何度も感情を突き動かされながら読みました。
壮大な歴史ロマン。己の信じた道を情熱を持ってひたむきに歩むその真っ直ぐさ。
春海の挫折を繰り返しながらも、明察を信じて立ち向かっていく、雑草のごとき生命力にこちらも力漲るようでした。

建部、伊藤の年齢に関係なく好奇心を抱き、ひたすらに挑む姿に感銘。
(おじさまコンビの無邪気な好奇心の様子がとても微笑ましくて、また泣ける。このお二人、大好き)
若き者に志を託し、それを受け継ぎ偉業に挑む春海。
優しい気持ちで春海を見守る二人の魂がさぞ喜びに満ちていただろうと思うと、もう胸が熱くなります。

そして春海に大きく関わってゆく人物たちのなんと魅力的なこと。
彼を魅了してやまない算術、関孝和という天才との出会いの財産。
酒井忠清、保科正之、水戸光圀、本因坊道策、えん、そしてこと。
特に会津藩士・安藤有益の実直さに惹かれました。

改暦の大志を抱き、22年という年月をかけてついに天に触れたときの止め処なく溢れる思い。
天地明察、素晴らしい言葉です。

読了日:2010年7月15日
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『あの日にかえりたい』乾ルカ

あの日にかえりたい
あの日にかえりたい
乾ルカ/実業之日本社
「できることなら、俺はあの日に帰りたい。帰りたいんだ。帰って女房を…」車いすの老人が語った言葉の真意とは―表題作ほか、時の残酷さと優しさ、そして時空を超えた小さな奇跡と一滴の希望を描く、著者渾身の6篇。

「真夜中の動物園」「翔る少年」「あの日にかえりたい」「へび玉」「did not finish」
「夜、あるく」6編の短篇集。
いずれも北海道が舞台になっています。
誰しもが持つ人生の分岐点「あの日」。
今を生きている者と、あの日から時が止まってしまった者との時空を超えた交錯が静かな奇跡を生みます。
それは希望に続く道筋でもあれば、もう時を刻むことのない過去への懺悔でもあり、ひとつひとつの物語に感慨深くしみじみと読みました。
それぞれが二度と戻ることのないあの日に触れて思い寄せます。
そこには懐かしい切ない気持が静かにたたえられていくのです。

特に「翔る少年」は互いの果てしない優しい思いが悲しくなるくらい伝わって大きく気持ちを揺さぶられました。
他「へび玉」「夜、あるく」が好き。

読了日:2010年7月9日

★乾ルカ作品感想
『メグル』乾ルカ

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『さよならのポスト』稲葉真弓

さよならのポスト
さよならのポスト
稲葉真弓/平凡社
森の中の緑のポストに届いたさよならの手紙。ポストを守るおじいさんのモノローグでつづる、心あたたまる8話のファンタジー。

森の中の緑のポストにはいろんな形の「さよなら」が投函されます。
その手紙をそっと取り出して読む「さよならのお話の番人」。
彼のちょっと物悲しい語り口で進む8つ(そして最後のひとつ)のさよならのお話たち。
悲しくて寂しくて切ない色のさよならから、希望の光に満ちた美しい色のさよならも。
それぞれが綴るさよならに込められた思いがじんわり沁みてポッと優しさが灯る読後感でした。
誰かにそっと聞いて欲しいさよならを手紙にし、緑のポストに落としてみたくなります。
いくつものさよならのどれにしましょうか。しばし思いに耽ります。

読了日:2010年6月29日
かりさ | 著者別あ行(その他) | comments(2) | trackbacks(1) | 

『メグル』乾ルカ

メグル
メグル
乾ルカ/東京創元社
「あなたはこれよ。断らないでね」奇妙な迫力を持つ大学学生部の女性職員から半ば強要され、仕方なく指定されたアルバイト先に足を運んだ大学生たち。そのアルバイトは、彼らに何をもたらすのか?五人の若者を通して描かれるのは、さまざまな感情を揺り動かす人間ドラマと小さな奇蹟の物語。

ミステリアスで不思議な雰囲気の連作集。
「ヒカレル」「アタエル」のホラー要素のものから、「モドル」「タベル」「メグル」の美しく感動的なものまで存分に堪能しました。
大学学生課職員の悠木さんが学生にバイトを(半ば強要的に)紹介する意味とは?それぞれのバイトを通して体感する奇妙で不可思議な経験が彼らに大きな光をもたらすのです。

「タベル」「メグル」が素晴らしい。
「ヒカレル」も怖いながらも惹きつけられます。
どことなく淋しい色合いで透明感を感じる表紙が、悠木さんを思わせて切なく感じます。
じんわり温かな奇蹟の物語。

読了日:2010年5月26日
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『後藤さんのこと』円城塔

後藤さんのこと (想像力の文学)
後藤さんのこと
円城塔/早川書房
後藤さん一般、後藤さん、後藤さん、後藤さん、反後藤さん、分後藤さん、偏後藤さん性―後藤さんについての考察が宇宙創成の秘密に至る「エクス・ポ」連載の4色カラー表題作ほか「早稲田文学」「思想地図」から「SFマガジン」まで、現代文学の最先端で試みられた、難しくてためにならない、でもなぜか心地いい言語遊戯6篇+α。

「後藤さんのこと」「さかしま」「考速」「The History of the Decline and Fall of the Galactic Empire」「ガベージコレクション」「墓標天球」6編の短編集。
帯の「index」が面白いです。

表題作の「後藤さん」や「The History of the Decline and Fall of the Galactic Empire」は突拍子ない方向へ突き進む話しにクスクス笑える余裕があったのですけど、他4作品はなかなか難解で、ゆえに読み進むスピードは落ち、瞼はひっつき、うとうとすることも(いやその正直書くとそういうことになってました。まさに「さかしま」とか。)。
ひとつひとつの言語がもう意味不明なのだからそれの連なりの世界はそれは奇妙奇天烈。すごい、この思考。

お気に入りは表題作の「後藤さんのこと」。4色カラーの後藤さん。後藤さんについての考察が楽しい。
特に"後藤さんの分割の性質について"は爆笑。
銀河帝国のこと「The History of the Decline and Fall of the Galactic Empire」も楽しい。
難しいと言いながらも気に入っているのは「墓標天球」。

読了日:2010年1月20日
かりさ | 著者別あ行(その他) | comments(0) | trackbacks(0) | 

『烏有此譚』円城塔

烏有此譚
烏有此譚
円城塔/講談社
灰に埋め尽くされ、僕は穴になってしまった文学界新人賞作家の最新作。
目眩がするような観念戯れ、そして世界観――。
不条理文学のさらに先を行く、新鋭の、やりすぎなまでに先端な、純文学。

装丁に惚れて、タイトルに興味持って、で、円城さんなので(読みたかった作家さん)迷わず手にして本開いて見てまずの感想。「なんじゃこりゃ」。もちろんいい意味での驚き。
本文がありましてその下段に注が書かれているのですけど、注が注としてきちんと機能しているのかというと機能しているのか?と?がまずついてしまうのですけど…。
注がころころとあらぬ方向へ転がって、一体これの元は何の注だったのかとはたと気が付いてみればいつの間にかどっか遠くのほうへ放り出されていたりして。
本来ならば本文読んで注があればとりあえず本文読むの一旦止めて、注読んでふむなるほど、と納得してまた本文に戻るというやり方がきっと正しいのかもしれませんけど、この作品の場合それをやっていると一体どこのページのどの言葉の注だったか、その注がどこに書かれているのか迷子になってしまうので付箋大いに活用しながらの読書でした。
いや、それも途中で訳が分からなくなって非常に効率悪いので本文をとりあえず先に読んで注は後からじっくりと、という方法で読むことにしました。いや、本文読んでいる時の注のチラつくこと。
で、結局本文の理解を求めるための注かと思ったら、これが何の助けにもならず、さらなる混沌の渦にとぐるぐる。
灰の話と穴の話に妙にふむふむと没頭して読んでいる自分が、我に返ったとき可笑しかった。

まず冒頭から「二」で始まって、ん?「一」は?と当然ながら不思議がるのですけど、ここから注を読むと何だかまぁ「二」から何故始まるんだ、「一」はどうしたんだ、という疑問がすっかりどっかに放り込まれて新たな疑問が生まれているという。気がついたときは円城ワールドにすっかりはまっていて「あ、そういえば」と気がついたときにはもうそんなことどうでも良くなっているくらいもっと大きな疑問符がこれでもかと頭の上をぷかぷかしているのでありました。
真っ当に見えた僕の語りが次第に思弁的になり、精神的変調の兆しでこれまで明確に見えていたように思えた世界がくるりと裏返って不安定になる。

注読んでものすごく気になった「ペダルテルノロタンドモヴェンス・ケントロクラトゥス・アルティクラトゥス」とやらを(日本名「デングリデングリ」)を調べてしまった。エッシャーの空想生物。へぇぇ〜面白い!可愛い!てな感じでこの注は非常に興味深いのです。
おおっ、と思わせる作品名なども登場していてこれはこのまま読み終えるんでなくこれからもちょこちょこ読み返してしまいそう。
ところでこの「デングリデングリ」、エッシャーの「階段の家」という作品にこれでもか、と登場していたんですね。お恥ずかしながら調べて初めてこの作品知りました。改めてエッシャーの作品をちゃんと見たい!とエッシャーにまで興味を広げていますです。

円城さんの作品をちゃんと読むのはこれが初めて。
SF本の雑誌」に収録されていた短編「バナナ剝きには最適の日々」が秀逸で、いや〜これは好きだわ、と一度ちゃんと読んでみたかったのでいい機会を得られて大変嬉しい。
決してすんなりするすると脳内に入り込む世界ではないのですけど、その混沌としたさまがまた魅力的で。
理解しようとするとより難解になってしまうので、そこは割り切って自分なりに解読すればそれもまた楽し。
読み終えて妙な興奮の中冷めやらずのまんままた読み返している自分。

装丁がとっても良いのです。めちゃくちゃ好きだなぁ。
そしてブックデザイン(本文デザインも)がこれまた名久井直子さん。
恩田陸さん『私の家では何も起こらない』の装丁もとっても素敵で、わぁ〜なんて思ってたんですが(装丁惚れで選んで読んだのですもの)、実は円城さんのこちらも装丁惚れだったんですよね。で、装丁で惚れて円城さん作品に惚れたという。いやはやこういう出会いってテンション上がります。
名久井さんのデザイン、これからも注目です。

読了日:2010年1月14日
かりさ | 著者別あ行(その他) | comments(0) | trackbacks(0) | 

『きんぴらふねふね』石田千

きんぴらふねふね
きんぴらふねふね
石田千/平凡社
懐かしい酢入りの自家製ドレッシングを思い出す春。夏の西瓜割り、秋空の下の駅弁、冬の風邪に大蒜……。四季の生活に根ざした身近で大切な「食」の習慣と記憶たち。

なんと想像をかき立てられるエッセイであろうか。
言葉や文章にぽつぽつと思いをくるみ差し出してみれば、読み手はその思いをほぐすのに夢中になる。
石田さんのぽとんぽとんと静かな音鳴り響くエッセイ。

さらさらと自由になびくかのように独り身の食を楽しんでいるかのようで、けれどもちょっぴりの侘しさとか寂しさも。
石田さんの飾らない生き方とその文章にすっかり惚れこんでしまいました。
何といっても紡ぐ言葉や文章の美しさといったら!
華美でなくむしろシンプルなのですけど、そこから想像をかきたてられる香しさというのでしょうか、上手く言えないのですけど実に良かった。

中でも食にまつわるお話しとして秀逸と思ったのは、「青菜惜春」。
日々の暮らし、食卓にならぶシンプルな料理、あぶらげを青菜の甘辛煮のだしとしょうゆのじゅうと焼ける匂いさえ漂ってくるかのよう。
そこから思い出される過去の人との思い。たまらなく良い。きゅうと切ない。

花見のこと、来客用トマトの話し、過去の人を思い出すこと、アルバイトの話し、ひとつひとつが秀逸でした。

読了日:2009年11月10日
かりさ | 著者別あ行(その他) | comments(0) | trackbacks(0) | 

『うつつ・うつら』赤染晶子

うつつ・うつら
うつつ・うつら
赤染晶子/文藝春秋
壊されてはならない。大切な言葉を、本当の名前を。彼女の名は「マドモアゼル鶴子」、場末の劇場で受けない漫談を演っている。外から流れこむ映画のセリフが漫才を損ない、九官鳥がくりかえす言葉は意味を失い、芸人たちは壊れていくが、鶴子は…。文學界新人賞受賞作「初子さん」収録。

『うつつ・うつら』というタイトルから勝手にイメージするのは、やわらかにふんわりと無力に漂う感じ。…だったのですが、いやはやそんなイメージで読んでしまうとこれはかなりの大ダメージを受けます。 いい意味で。

京女というと「はんなり」という言葉や優雅な所作も思い浮かんできますが、ここに登場する京女・初子さんは何というか健気というか強かというか。好きなことを職業にしてみたもののどうにも周りには理解されず、そんな鬱屈を毒吐きながらそれでも生きていく初子さんの強さ。
ふんわりしたイメージの京都がガラリと力強いものに。

もうひとつ、表題作はもう強烈。猛烈に襲ってくる言葉の力に圧倒されてしまった。言葉の力、この支配力はもうもう雁字搦めにさせられてしまってものすごいのなんの。赤染さんの言葉の吸引力が凄すぎる(←凄まじいくらい)

読了日:2009年6月2日

かりさ | 著者別あ行(その他) | comments(0) | trackbacks(0) |