そこへ届くのは僕たちの声 小路幸也/新潮社
仲間の声に導かれて僕らは強くなる−。植物人間を覚醒させる人の噂と、奇妙な誘拐事件を結ぶ「ハヤブサ」というキーワード…。「見えざる力」を駆使して試練を乗り越える子供達の友情と勇気を描くファンタジック・ミステリー。
小路さんといえば、先月読んだ
『HEARTBEAT』でも驚かされたばかりだったので、これはこのままミステリーでは終わらないな、と構えていたらやっぱり!でした。SF?ファンタジー?ミステリーっぽく始まった物語が徐々にあり得ない方向に流れる。そしていつの間にかあり得ないことでもこういうことってこの世のどこかできっとあるのかも…と思えてしまうのだから小路さんの作品は不思議である。
キーワードは「ハヤブサ」。定年を間近にした刑事が追っている事件の被害者が植物状態になってしまう。犯人を目撃していたかもしれない。何とか目覚めてもらえないだろうか…そんな気持ちで植物状態の患者を持つネットワーク経由で不思議な話しを聞く。何でも植物状態になった患者からのメッセージを受け取ったり、覚醒させたり出来る人物がいるようなのだ。その人物の名は「ハヤブサ」。
真山は交通事故により植物状態になった妻が奇跡的に回復した経験を本にしていた。出版を勧めたのが幼なじみで新聞記者である辻谷。ある日辻谷が不可解な誘拐事件の謎を持ち込んでくる。そこに関わってくる人物の名も「ハヤブサ」。
「ハヤブサ」とは一体誰?この疑問を解明すべく各々が立ち上がる。
そして震災で母を亡くし、父が植物状態になってしまったかほりには、幼少の頃から空耳らしき声が聞こえる。空耳というよりも空から声が聞こえてくるみたいだから「そらこえ」さん、と彼女は名付ける。この声はどこから聞こえるんだろう。何故聞こえるんだろう。
最初はミステリーなのかな?とこの行方にかなり期待。ところが今度は子供の視点が加わり、かほりの「そらこえ」になってくると方向性が違ってきた。あれれ、SFっぽくなってきたぞ…この不思議な物語の行方にもう目が離せなくなり一気にページを繰っていました。
星好きな子供たち。宇宙飛行士を夢見る男の子たち。天文台で語り合う彼らは妙に大人びて眩しい。やがて明らかになってくる謎。「ハヤブサ」の正体は意外と早く解明します。そしてこの後ゆるやかに流れていた空気が一気に終結に向けて引き締まり速度を増す。
子供たちに託された決断と勇気には胸を揺さぶられました。子供たちの姿が健気でぐっときました。小路さん独特の優しさとノスタルジーが彼らを包んで読み手も優しくなれる。素敵な作品でした。
読み終えてもう一度プロローグを読む。そうしてまた感動を得る。
地球を飛び越え宇宙に夢を乗せる彼らの声が聞こえてきそう。私にはもう無理なのだけど。
読了日:2005年8月18日
余談ですが…作中である女性がパッチワークをするシーンが幾度が出てきます。パッチワークが好きな私にとってそのシーンが出てくるたびにんまり。どんな布で、どんな色合いで、何を作っているのだろう…いろいろと想像しながら読んでいました。
そして、パッチワークと言えば森博嗣さんの
『すべてがFになる』にもあるシーンでパッチワークキルトが出てきます(ちょっと意外だったのだけど)。ほんの数行の描写だし重要な道具でもないので見落とされがちですが、私にとっては忘れられないシーン。この時もどんな配色で作っていたのかなーとか、どんな思いで作っていたんだろう…などと妄想しながら読んでいたのを覚えています。パッチワークって幾何学模様を組み立てて作っていくものですからそう考えるとその人物が作っていたという事実に意外性を感じながらも、ある意味納得もいくなぁと思ったものです。
ストーリーとは別のところでついつい妄想してしまう私なのでした。
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