ひなたでゆるり

読書のコトとちょっぴり日々のコトブログ

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『剣客商売16 浮沈』池波正太郎

浮沈 (新潮文庫―剣客商売)
小兵衛が関わった二十六年前の敵討ちを機に、運命を分かった二人の男。
シリーズ最終巻。
「剣客商売」最終巻。とうとう、である。
未読であるうちは「ああ、寂しい。別れが近づいていくことが寂しい」と寂しい、寂しいを連呼していて最終巻を手に取り開き、読み始めてさらにその思いが増幅され、また作者がまるで作品の終わりを予期していたかのような書き方をしているものだから(登場人物のその後、などが書かれていてまたしんみりしてしまう)さらに、さらに。
けれども、そんな気持ちよりもまた面白さが頭をもたげてあっという間に引き摺られてしまう。そしてここに登場する、山崎勘之介や平松伊太郎の優しい好人物ぶりについつい和んでしまったり。反対に26年前仇討ちに立ち会った門弟・滝久蔵の変貌振りにまた悪党ぶりがいやはや。弥七の「ともあれ、人間というものは、辻褄の合わねえ生きものでございますから…」これがまた確かにそうだよなぁ、人間というのはそういう生きものだよなぁ、としみじみ弥七の言葉に頷くのである。

何やらふわふわしていて頼りなげだった平松伊太郎も父に関わる事件を機に逞しくなる。男の子というのはいつまでも頼りなくて、なんて嘆くこともあるけれど(一応息子の母親としてそう思うこと度々、いやしょっちゅうか)いつの間にか強く逞しく育ってくれるのかもしれない。もちろんこの時代と今の時代では子の育つ環境は違いすぎるけど。
平松伊太郎のその後の生き方もこれはこれでいいのかもしれない、こうやってまた時代は変わっていくのかもしれない、とややしんみりしながらも晴れやかな気持ちで読み終えるのであった。

小説の面白さはもう重々承知していて、だから本も水を飲むようにがぶがぶぐいぐい読みたくて読むのだけど、やっぱり小説は面白い!と本当に、この年になってまた改めて感じさせてくれた「剣客商売」であった。長くさまざまな人々に愛されて読まれている池波正太郎の作品がどんなにか面白いか私はようやく知ったばかりで、さらにさらにその面白さを感じるためにも「鬼平犯科帳」や「仕掛人・藤枝梅安」を読んでいこうと早くも胸が疼いているところである。
最終巻を読み終えて寂しいという気持ちは何故か清々しさに変わりつつあって、もちろん切なさはあるけれど涙がじんわり染みてくるけれど、たぶん達成感も多少はあるかもしれないけれど、でもいつでもまた会えるんだという安心感というのかな、今はそんな気持ち。
だから最終巻を読み終えてまた1巻から読み返す。あるいは好きな巻を読み返す。
この時の私はそれはもう幸せな心持ちでいっぱいなのである。

読了日:2007年11月29日


ようやく読み終えました。全16巻。
シリーズ読破であって番外編の3冊はまだ未読なのですが、こちらはまたいずれ。
読み終えての感想はもう上記に語ったのでここでは是非とも謝辞を。
時代小説初心者の私に2年前(2年前!わぁ〜もうそんなに経ってたんですか)この『剣客商売』をオススメして下さったロケットさんに感謝しています。それはそれはもう限りない感謝です。本当にありがとうございました!

さあ!次は鬼平ですぞ。次はどんな池波さんの世界が待っているのか楽しみです。わくわく感が高まっていて、こんな風に夢中になれるものがあってそれを追いかけていく楽しみというのを実感出来て、ああこんなに至福な時を味わえるなんて。
これはまた格別な気持ちなんですよねぇ。
ということで鬼平の感想をまたぼちぼち綴っていけたらいいな、と思っています。
かりさ | 著者別あ行(池波正太郎) | comments(2) | trackbacks(0) | 

『剣客商売15 二十番斬り』池波正太郎

二十番斬り (新潮文庫―剣客商売)
恩師ゆかりの侍・井関助太郎を匿った小兵衛に忍びよる刺客の群れ。老境を悟る小兵衛の剣は、いま極みに達した。シリーズ第十五弾。
とうとう15巻。残すところあと1冊。それはもう寂しい思いをつのらせながら読んだのだが、寂しい、寂しい、と思いながらもこれがまぁ面白くて一気に読んだ。
12巻〜15巻一気読み。もっとこう味わってちびちび読むつもりが…あらら。

さて、「二十番斬り」。すっかり老いてしまった小兵衛の、そんな姿がさらにさらに小さく心許無い思いをさせていたのだが、そして冒頭では小兵衛の健康状態の不安がさらにつのって果たしてどうなってしまうんだろう、おはるの心配事がこちらにも移ってしまったかのようにおろおろしてしまったのだが。
やはり小兵衛、只者ではないのである。これぞ小兵衛!と思わず唸るその俊敏さ。ああ、剣客商売を読み始めた頃、ひしひしと感じた小兵衛の活き活きとしたその姿が蘇る。

恩師・辻平右衛門ゆかりの侍・井関助太郎が瀕死の状態で見つかる。一緒に行動していた小さな男の子との関係もなかなか明かされぬまま。そんな二人に刺客が群れる。
黒い陰謀がさらに黒々ととぐろを巻き、一体その顔はどんな風なのか正体は誰なのか、明かされるまでの緊迫感が面白さを増して、また小兵衛も活き活きと飛び回っていて少しトーンダウンしていた「剣客商売」も活気付く。
三冬の父、田沼意次の身辺の暗く不安なものが押し迫る緊迫感もあり、大変読み応えのある巻であった。
短編「おたま」の猫ちゃんの活躍ぶり、小兵衛と猫との話しも微笑ましい。

人の老いていく姿は何だかとても切なくて、例えば自分の親に久しぶりに会ったりすると確実に老いが見られて「ああ…」なんて妙な寂しい気持ちが広がってしまう。それと同じく小兵衛の老いが自分の親の老いに重なるようで、そんな親と小説の人物と姿を重ねるなんて実際今まであり得なかったのだけど、それだけこの「剣客商売」が好きなのであって小兵衛とかおはるとか大治郎&三冬、弥七や徳次郎、又六(又六!最終巻まで読んだ人には共感してもらえると思うが(ここでは私も最終巻まで読了済み)「おっ、又六ぅ〜このこのぉ〜」と彼を小突いてやりたくなる出来事があって、にんまりなのだ)、そしてこれまで登場した剣客たちが実際に生きていたようなそんな錯覚を覚えてしまうほど、この作品を愛してしまっているのだなぁ。

小兵衛の老いに反して大治郎はますます剣客としての力を得ていくし、始めは自信なさげだったものが今ではずいぶん逞しく成長した。三冬という最高の伴侶を得てまさに理想の夫婦!我が夫婦もかくあるべき、とお手本にしたくなるのである。

読了日:2007年11月28日
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『剣客商売14 暗殺者』池波正太郎

暗殺者 (新潮文庫―剣客商売)
波川周蔵の手並みに小兵衛は戦いた。大治郎襲撃の計画を知るや、波川との見えざる糸を感じ小兵衛の血はたぎる。第十四弾、特別長編。
『剣客商売』は短編がほとんどで長編は少ないのだけど、始めこそその長編に少し慣れなくて「やっぱり剣客商売は短編がいいなぁ」なんて思ってもいたが、いやはやその伏線だったり謎が明かされるタイミングだったり愛すべきお馴染みの登場人物たちの活躍ぶりだったり、これはもう長編ならではであってこの14巻を読んでその思いを強くし、うむうむと偉そうに頷いてみたり。

秋山大治郎襲撃の計画を偶然知ってしまった小兵衛。我が子を心配するあまり小兵衛は奔走するのだが、いつになく逡巡し、また焦りを隠せぬ様子。けれども当の本人・大治郎は意に介さぬ様子。それがまた小兵衛の心配を大きくしてしまうのだが。
大治郎と三冬、この夫婦が大好きで彼らが登場すると本当に嬉しくなってしまうのだけど、この作品ではもう一組の夫婦に魅せられてしまった。ここで重要な人物・波川周蔵とその妻・静。このどこまでも静謐な関係。波川夫妻が登場するととても穏やかな気持ちが広がるのを感じる。会話はなくとも互いの動作や目で相手の言おうとすることが分かり合える。妻は夫の行動に不安や疑問を感じながらもどこまでも信じ、頼る。妻たるもの、という言葉が自然に浮かんで襟を正す思いであった。
さて、その周蔵。彼には目が離せなくなる。果たして周蔵の意とは。

そしてまたラストが秀逸で、何やら温かなものが流れ込んで…ああ。

読了日:2007年11月28日
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『剣客商売13 波紋』池波正太郎

波紋 新潮文庫―剣客商売 新装版
剣客商売13 波紋
池波正太郎/新潮文庫
大治郎の頭上を一条の矢が疾った。これも剣客商売の宿命か表題作他、格別の余韻を残す「夕紅大川橋」など、シリーズ第十三弾。
『剣客商売』13巻はまた格別に良い話しが多かったなぁ、としみじみしているのだが、これまた何やら心を残してしまったようなすっきりしない心持ちがする。
それはこの巻に漂う鬱々としたものや、小兵衛の沈鬱した思いが読み手に乗り移ってしまったかのように。

この中でも印象的だったのはやはり5話目の「夕紅大川橋」。
ラストの「ああ…」と深いため息のつくような流れも悲しいのだが、この舞台となる"武蔵の国・北豊島郡・中里"という所が個人的に懐かしい場所だから。現・東京都北区上中里なのだが、まさしくこの土地に住んでいたことがあったのだもの。そしてその当時の氏神さまでもあった「平塚明神の社」まで登場してとても懐かしく、嬉しくなってしまった。息子達のお宮参りから七五三からこの神社にお世話になったもので、その風景がまざまざ思い出されて、でももう帰ることのないこの場所を思って懐かしく、嬉しがりながらもすとん、と胸の落ちる思いが広がってしまい、そしてこのラストを迎えて沈んでしまった。
そして老いていくということ。ああ、なんと残酷なこと。

で、表題作の「波紋」がこれまた良かった。あんな終わり方を読まされたらもう本当に素敵だな、と。池波さんの上手さというのをこれまで読んで沁みているのだけど、さらにさらにくるものがある。こういうさり気なさ、だから良い。

それにしてもすくすくと育つ小太郎の可愛いこと。彼もまた強く逞しく育つのだろうな。
そんなことを妄想してにんまりしてしまうのだ。

読了日:2007年11月28日
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『剣客商売12 十番斬り』池波正太郎

十番斬り (新潮文庫―剣客商売)
剣客商売12 十番斬り
池波正太郎/新潮文庫
無頼者一掃を最後の仕事と決めた不治の病の孤独な中年剣客。その助太刀に小兵衛の白刃が冴える表題作など全7編。シリーズ第十二弾。
ああ、とうとう12巻。
じわじわと終わりに近づいていくのが怖い。…としつこく書いても詮無いので12巻の感想。

明らかに現代と時間の流れが違う剣客商売の世界にいると、こうのんびりしたゆったりした大らかな気分になる。それが土台にあっての命の紙一重の世界。
今回はすとんと胸が落っこちるような寂しいような切ないようなそんな話しが多かった。だから読んでいてちょこっと落ち込んだりもした。それが「浮寝鳥」「十番斬り」「逃げる人」の話し。やりきれない思いがいっぱいになって読み終えてしばし考え込んでしまったり。
そんな話しの中にも「同門の酒」のようなとんだ目に遭った孫次郎の様子が微笑ましかったり(いや、本人は相当怒り心頭であったけど(笑))、ちゃんとホッとさせる話しも用意されているのだから嬉しい。
「罪ほろぼし」も良かった。あの終わり方が何とも、いい。

さてさて、剣客商売を読み終えるとなんぞ美味しいものを食べたくなる。別に贅沢なものを、というのではなく旬のものをシンプルにお酒と共にゆっくり味わうようなそんな時間を過ごしたくなる。きっとそんな時間こそが贅沢なのだろうなぁ。
時間に追われてせかせか味わいもせず口に運び、その料理も年中いつでも食せるものばかり。今はそんなことが当たり前の生活になってしまい食に関して鈍感になってしまっているのだもの。
そんな大事なことをここでは教えてくれて、それだけでも私は嬉しい。
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『剣客商売11 勝負』池波正太郎

勝負 (新潮文庫―剣客商売)
剣客商売11 勝負
池波正太郎/新潮文庫
相手の仕官がかかった試合に負けてやることを小兵衛に促され苦悩する大治郎。初孫・小太郎を迎えいよいよ冴えるシリーズ第十一弾。
「剣客商売」もいよいよ11巻。ああ、じわじわと最終巻に近づいていくのが怖い。
寂しくて怖い。終わってしまうと脱力感に襲われるんじゃないかとそれが怖い。
だが、紐解けばあっという間に読んでしまって、また最初から読み返してこの世界を堪能してうふうふとにんまりする。

さて、11巻「勝負」である。
表題作「勝負」がやはりこの巻の中では印象深い。仕官がかかっている谷鎌之助との試合で「負けてやる」べきか否か。勝負事は何事も真剣であらねば、と苦悩する大治郎の出す答えとは。そしていよいよ大治郎と三冬の子も初お目見えとなる。ここではどんなに強い男でも出産に関してはどうにもこうにもならないんだよなぁ、と大治郎の姿を見て微笑ましくなる。はてさて無事生まれた子がこれからどう育つのかまた楽しみが増えた。

もうひとつ。
この巻は三冬が際立った作品ではないかと、勝手に思っているのだが。
三冬が子を産んで母となったこともそうなのだけど、ある日の三冬を描いた「その日の三冬」がとにかく秀逸なのだもの。大治郎と三冬を描いた話しはどれも好きだが、この三冬を描いた話しも大好きである。

個人的に大好きな大治郎と三冬を贔屓にしてしまうからついついと彼らにばかり目線を向けてしまうが、ここは秋山小兵衛が主役なのだから小兵衛のほうも気にかけてあげないとね、ってことで小兵衛である。
初孫の嬉しさがそりゃぁもうこちらにも伝わって微笑ましいのだが、おはるにとったらちょっと複雑な気持ちであるだろうなぁ、と思うと(何たって三冬と同い年だもの)読み手も複雑な心持ちになってしまう。
そんな孫の命名にまつわる話しでもそうはすんなり事はいかないのだ。必ず何かが待ち受けているのであって次はどんなことに巻き込まれるのか、はたまたどんな事件が待ち受けているのか、ここへくると読み手側もついつい身を乗り出してしまう。

それにしても巻を重ねるごとに小兵衛の老いがますます感じられて少々寂しい。何かに逡巡してみたりする姿はかつては判断力、決断力に長けていたであろうその姿は薄らいで何だか心もとないような寂しい気持ちがしてしまうんである。
でも、おはるの物事に頓着しない、大らかな性格がそんな小兵衛を包んでくれて何となく私は安心してしまうのである。
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『剣客商売10 春の嵐』池波正太郎

春の嵐
剣客商売10 春の嵐
池波正太郎/新潮文庫
わざわざ「名は秋山大治郎」と名乗って辻斬りを繰り返す頭巾の侍。窮地に陥った息子を救う小兵衛の冴え。シリーズ初の特別長編。
『剣客商売』初の長編。
短編も当然のことながらサクサク読めて面白いのだけれども、この「春の嵐」は殊更に面白くすっかり堪能した。大治郎の名を語る謎の暗殺者。しかも狙うは田沼意次と松平定信の家臣ばかり。大治郎は窮地に追い込まれてゆく。
さあ、大治郎の無実を晴らさんとすべく、小兵衛を始め脇役達が奔走する。一体この暗殺者の正体は?話の結末がきっと良い方向へいくことは分かってはいても、やはりドキドキハラハラとその展開から目を離せず、せっせとページを繰ることになるのである。
やがて明らかになってくる黒い陰謀。その大掛かりな背景にさらなる戦慄を覚える。
今作では大治郎が主役格と思いきや、やっぱり小兵衛が主役で(ま、当然ですな)特に徳次郎は大治郎のために多大な労力を惜しまずその活躍ぶりが頼もしい限り。願わくばもっとこう大治郎にも登場してもらいたかったが、仕方あるまいか。

印象的な文章がある。人間の矛盾さを書いた部分である。どの時代においてもこの世を作るのは矛盾だらけの人間であり、その世に矛盾が生じていくのは致し方ないこととはゆえ、やはりこのことを考えれば深く深く思案してしまうものである。
私もかなりの矛盾人間である。くだらないこと、よけいなことをぐだぐだ考えてしまう。そこにはまり這い出せず暮らしにも支障をきたすことすらある。
昨日言ったことと今日言うことが違っていたりもする。自分の都合の良いように道筋をあちこち変えて次第におかしな方向へ行ってしまう。これがどんな経験を積んでも学習しなければ同じことなのだなぁ、とちょっと考えに耽ってしまった。池波さんはここで頭脳と肉体の関係をさらっと書かれているのだけど、これがなかなかに深い。

それにしてもおはるがこしらえる料理の美味そうなこと。小兵衛は幸せ者だなぁとつくづく思う。おはるの天真爛漫な可愛らしさも読んでいくごとに味わい深くなり、そのおはるに懸命に家事を学ぶ三冬もすっかり女性らしくなって微笑ましい。が、そこは女剣士、いざとなると男勝りに立ち向かうさまはけれども今の三冬を思えば「ああ、そんな無理をなさらずに…」とついついハラハラしてしまうものである。
冒頭の小兵衛、おはる、大治郎、三冬の4人で囲む食卓の様子が実に実に平和で穏やかで最も好きな場面である。

読了日:2007年6月6日
かりさ | 著者別あ行(池波正太郎) | comments(0) | trackbacks(1) | 

『剣客商売9 待ち伏せ』池波正太郎

待ち伏せ
剣客商売9 待ち伏せ
池波正太郎/新潮文庫
親の敵と間違えられた大治郎がその人物を探るうち、秋山父子と因縁浅からぬ男の醜い過去が浮かび上る表題作など、シリーズ第九弾。
さくっと読めるはずが、どうにもこうにも風邪が一向に回復せず鼻水ズーズーの咳ゴボゴボで、こりゃ回復するどころかさらにひどくなっているんじゃないか?といった状態だった頃。年をとってくると体の不調が心のほうにまで影響を及ぼしてくるようで何とも悲観的になってしまう自分がいるのを認めざるを得なくて。そんなちっこい自分を情けなく思いながらここ最近を過ごしていたのだけど…まぁとろとろとここに書いても詮無いのだけど。

で。さくっと読めるはずがそんなこんなでゆるゆるペースで読んでいた。剣客商売の世界に流れる時間もとてもゆるやかで特におはるののんびりした口調にずいぶんと癒されていて、これだからちょっと心と体が弱っているときにここへ戻りたくなるんじゃなかろうか、などと思ってしまうのである。そうしてここに存在する人物達の活き活きとしたさまにこちらも力を分けてもらって元気になれるではなかろうか、とそう感じながら読むのである。実際そうなのだもの。
そんなのんびりした時間の流れを楽しむのと同時にここは剣の世界である。生きるか死ぬかの世界でもあり、いつ自分が斬られて終わってしまうかもしれぬという緊張感もある。ああ、良く考えればすごい世界だなぁ、と。いとも容易く斬って捨ててしまう時代が確かにあってそこには現代と変わらぬ悪人があって。それがのうのうとしているさまなぞは何とも憎々しい。いつの世も人間の闇というのは変わらず誰の心にも巣食っていくのであるのだなぁ。
そして敵討ち。敵討ちが法制化されていたこの時代では正当な復讐の決闘であって、それは討つほうも迎えるほうも並々ならぬ心情のもとにあってその双方の思惑は図り難い。「剣客商売」の世界ではこの敵討ちが結構出てくるのだが、本書に収録されている「討たれ庄三郎」はとても切ない話だった。そんな背景があったとは露知らず討ってゆく若者の、けれどもそれと知らぬのに我も知らずに行動してしまったあの姿にはしんしんと切ないという感情が降り積もる。
そして最後の「剣の命脈」もやり切れぬ、こちらも切ない気持ちが広がる話でそんな鬱々と沈みゆく気持ちをどうにも持て余しながら読み終えることとなった。いつになくしんみりした読後感。

その剣の世界でも料理は美味い。いや、きっと美味いであろう数々の料理にこれまた目を見張る。深川の「ぶっかけ」とよぶ「いまが旬の浅蜊の剥身と葱の五分切を、薄味の出汁もたっぷりと煮て…」。う、うまそ〜。これを土鍋で煮て汁もろともに炊きたての飯へかけて食べるのだそう。浅蜊の剥身と葱を出汁で煮ただけなのに何故にこれほど美味しそうなのか。これを大治郎は4杯もぺろりと、そうぺろりと食べてしまうんである。うむ、気持ちは分かる。きっと私も同じくかっ込んでしまうであろう。うむうむ。
「剣客商売」は深い。どこもかしこも深い。その深さにどっぷり浸かっているのであった。

おお。そうそう。書き忘れるところだった。表題作「待ち伏せ」にて知らされる嬉しい事。これには「おお!なんと!これは!」とついついほくそ笑んでしまったものである。どうかどうかこのままご無事で。

読了日:2007年5月30日
かりさ | 著者別あ行(池波正太郎) | comments(2) | trackbacks(2) | 

『剣客商売8 狂乱』池波正太郎

剣客商売〈8〉狂乱
剣客商売8 狂乱
池波正太郎/新潮文庫
足軽という身分に比して強すぎる腕前を持ったがために、うとまれ、踏みにじられ、孤独においこまれた男。秋山小兵衛はその胸中を思いやり声をかけてやろうとするのだが、一足遅く、侍は狂暴な血の命ずるまま無益な殺生に走る…表題作「狂乱」。ほかに、冷酷な殺人鬼と、大治郎に受けた恩義を律儀に忘れない二つの顔をもつ男の不気味さを描く「仁三郎の顔」など、シリーズ第8弾。
さて。
読み始めたら止まらぬのが『剣客商売』である。気持ち良く読めたものだから次も…とつい手が出ていよいよ8巻。シリーズでちょうど半分まできたところである。
微熱のけれども妙にスッキリした頭で読んだ前作と打って変わって、今作は微熱もすっかり下がり「おお、これは回復も近いかな」と喜んだのもつかの間またぶり返すどころか高熱に浮かされてうんうん唸った前後に読んだものであるから、何とも夢うつつのまま読んだものである。
そんなふわふわ心地で読んだ本書の1編「狐雨」は不思議なけれどなかなか素敵な話しで自分の夢の中にも狐が現れて何やら言っていたような自分の想像の中なのか、小説の中なのかしばらく混濁してしまいこれがまた不思議加減が心地良く結果気に入ってしまった話しである。

さて、本書『狂乱』では人間のさまざまな顔を見ることとなる。悪事に手を染めてしまった者に対しては同情も出来ないが、中にはその強さゆえに疎まれてしまい心に傷を負ってしまった、表題作「狂乱」の石山甚市が哀れでならなかった。こういう孤独から生まれる感情というものは昔も今も変わらないのだなあ、と。狂気に満ちた石山の行動もその根っこにあるものが孤独にあって、あたたかな優しいものに触れるのがもう少し早ければ…とつい悔やんでしまう。池波さんの小説にはそういう何ともやり切れぬ思いをさせるものが度々登場するが、その度についついしんみりとしてしまうのである。

「秋の炬燵」などはまぁ実にわかりやすいその背景にあるものがよくよく考えれば恐ろしいものであり、愚かでもあり、秋山小兵衛が最後に見せる表情にもそれは見えて何とも悲しい。大人の愚かさが悲しい。そうしてさらに小さく老いて見える小兵衛の姿も悲しく映るのである。

で、おなじみ料理の場面ではこれまた「食べたいっ!」の欲求が止まらぬ描写の数々。体調不良の食欲不振などどこかへ飛んでしまえーっ、の威勢であった。おかげで食欲だけはあったから回復も早かったのだろう、翌日にはすっかり熱も微熱に下がり落ち着いてくれたものである。
「莢いんげんと茄子を山椒醤油であしらったもの」「小海老に焼豆腐の吸物」など実にシンプルだけど贅沢と感じさせてくれる料理方法は大変に参考になってすぐさまお手本にしたいくらいである。したいくらいである、と書くとしたいけどねぇ、なかなかこれがねぇ…ということになってしまうだろうから、お手本にしてしまうのである。がここではきっと正しい。食材が手に入れば早速食卓に出てたりするのだから。いんげんと茄子の山椒醤油和えはまだ試していないけれど。ま、いずれこれもきっとマネっこするんだろう。

読了日:2007年5月26日
かりさ | 著者別あ行(池波正太郎) | comments(2) | trackbacks(0) | 

『剣客商売7 隠れ蓑』池波正太郎

剣客商売〈7〉隠れ蓑
剣客商売7 隠れ蓑
池波正太郎/新潮文庫
盲目の武士をやさしくいたわる托鉢僧―旅の途中で出会った、年老いた二人連れが何故か秋山大治郎の心に残った。江戸に帰った大治郎は、偶然試し斬りされかかった件の老僧を助け、二人が二十八年におよぶ仇討ちの敵同士であることを知る。人知をこえたその絆の不思議さを描く「隠れ蓑」。小兵衛が小金持ちの隠居と見られて盗賊に狙われる「徳どん、逃げろ」など、シリーズ第7弾。
前作『新妻(6巻)』を読んだのが昨年暮れの話しで、それからしばらく遠ざかってしまって。
で、またぷっと、そうぷっと読みたくなってきて。
で、紐解いたわけですが。というか年内に読むぞー!と言っておきながらいとも容易くこの誓いを破った私。今年こそは読むぞー!と鼻息荒くしているんですがはてさてどうなることやら。そんな私なのに、この剣客商売の世界はちゃーんと「おかえり」と言ってくれるのだ。温かく迎えてくれるのだ。

風邪をぶり返し、鼻水と咳のオンパレードで微妙に熱なんかがあって、でも妙に頭は冴えていて。こんな時に選んでしまうのがこの『剣客商売』。いそいそと未読本コーナーから数冊引き抜いてひたすらこの世界を堪能する。なんと贅沢なひとときか。そうして本書も充分に堪能したのであった。

今回は私の好きな大治郎・三冬夫妻があまり出てこないなぁ、なんて寂しく思っていたもののちょこっとでも登場すると嬉しくて「ああ、仲睦まじくやっておるな。うむうむ」などと満足するのである。
さて、ここはやはり徳次郎であろう。傘屋の徳次郎と盗人・八郎吾との妙な取り合わせが一体どんな展開になるのか面白くもあり、はらはらさせられたり。しかしその結末は…徳次郎の思いがこちらにも伝わってきてしんみりする話しであった。
そして表題作「隠れ蓑」。これはもうこの時代だからこそ描ける話しであって、これがまたなんと悲哀のこもったどう表現したらいいものか難しい感情がひたひたと押し寄せる。

さて、食欲がない時に池波さんの本を読めばたちどころにお腹がぐうぐう鳴ってくる。台所に立って包丁を持って何かこしらえようか、という気持ちにさせてくれる。贅沢な食材は必要なし。艶やかなご飯に漬物だけでも充分。旬の素材を使い、その恵みに感謝しながら丁寧に調理する。それだけでもう美味しくいただけるのである。

読了日:2007年5月23日
かりさ | 著者別あ行(池波正太郎) | comments(0) | trackbacks(0) |