ひなたでゆるり

読書のコトとちょっぴり日々のコトブログ

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『波打ち際の蛍』島本理生

波打ち際の蛍
波打ち際の蛍
島本理生/角川書店
川本麻由はかつての恋人によるDVで心に傷を負い、生きることに臆病になっていた。ある日通院先で植村蛍に出会い、次第に惹かれてゆくが…どこまでも不器用で痛く、眼が眩むほどスイートな恋愛小説!!

8月に読んで感想も書いてあったんですが、何やかやと今頃に…。
今でも印象に残っている作品です。

島本さんはまた痛くて苦しい恋を書いたのかな。と、少し心配しながら読んだら、やっぱり痛くて苦しい恋のお話しでした。でも、いつもと違うのはその痛さや苦しみに加えて切なさや愛しさがあったこと。

心が壊れてしまう寸前まで恋人にひどい仕打ちを受けた女性が、果たしてまた恋を出来るんだろうか。もしかしたらまた…という苦しみにもがきながらそれでも男性に惹かれ好きという気持ちが芽生える。好きになった人に触れたい、と思う。
好きな人からも触れて欲しい、抱きしめて欲しい、と願うけれど体や心の隅々まで刻まれてしまった怯えがその気持ちを拒んでしまう。それは激しく、猛烈に。
糸を手繰り寄せるように少しずつ傷ついた麻由を包んであげようとする蛍の優しさに甘えたいけれど、上手くいかない。そんなもどかしさが恋を波のように寄せたり引いたりしてしまう。その過程がとても痛々しいのだけど、切ないのだけど、愛おしい。
諦めず恋しようとする麻由がとてもとても愛らしい。
そんな麻由を取り巻く人々も魅力的。さとるや紗衣子や楠本さんとの会話の中で麻由が解されていくようすが伝わって安心する。

人を好きになるってその過程でさえも普通は辛さも苦しさも伴うものだけれど、恋愛で痛手を負って信じることが出来なくなってしまった場合それを乗り越えるだけでもかなりの消耗をする。けれども人を好きになるというのはこんなにも本能的なものなんだなぁ、とそんな麻由だからこそ感じる。
人を好きになるというのは安心感を得る、というよりも自分の世界にないものを2人で見つけたい、っていう希望が好きを衝き動かすのだろうなぁ。見たことのない世界を希望をこの人と見たい、っていう気持ち。共有したい気持ち。その恋に苦労しても疲れてもそれでも惹かれる時ってそれを欲しているのだろうな。

島本さんの丁寧ながらたおやかに躍動する文章が、恋を諦めない麻由の懸命さと重なってとてもとても良かった。気持ちが良かった。

痛さと苦しみの物語は、でも、とても希望の光射す物語でもありました。

読了日:2008年8月18日
かりさ | 著者別さ行(島本理生) | comments(4) | trackbacks(3) | 

『あなたの呼吸が止まるまで』島本理生

あなたの呼吸が止まるまで
あなたの呼吸が止まるまで
島本理生/新潮社
十二歳の野宮朔は、舞踏家の父と二人暮らし。夢は、物語を書く人になること。一風変わった父の仲間たちとふれ合い、けっこう面倒な学校生活を切り抜けながら、一歩一歩、大人に近づいていく。そんな彼女を襲った、突然の暴力。そして少女が最後に選んだ、たった一つの復讐のかたち――。

あなたの呼吸が止まるまで…タイトルの言葉の意味を知って愕然となる。少女のささやかな復讐。
ああ、私はいつも思うのだ。島本さんはすごい、と。してやられた、と。
12歳の少女の視点で物語は進む。丁寧な言葉遣いに繊細な純粋な少女の姿が微笑ましくてこの流れがこのまま続いていくのかな、なんて少し気持ちに余裕を持ちながら読んでいくと…それはやってくる。
ああ、くるな、くるな、と読み手は何となく感じ取っているのだけれど、それがごく自然にサラッと流されるように行われて、それが何とも不快で次第に憤りで気持ちがざわつく。完全にここに入り込んで感情を持っていかれていることに気がつかず、読み終えて我にかえって思うのだ。ああ、作者にしてやられた。
島本さんの作品はいつも冷静でいられなくなる。「こいつ最低だな」なんて登場人物に怒りを覚えて気持ちがそれに満ちて、ふるふる震えている自分は作者の思惑に完全にはまっているのだもの。

冷静に時間を置いて考えてみると作者の言いたかったこと、伝えたかったことが漠然とだが見えてくる。それはここの後半で少女の父が言葉にしている。
稚拙な大人によって振り回されたり、あるいは人生を狂わされたり、悲しみのただ中に突き落とされること。それを悪びれずにいられる大人の神経。私たちは子供をそんな目に遭わせてはいないか、大人の無神経な態度や行動に子供たちを傷つけてはいないか、それを振り返り、我が身に問いかけてみたりする。

島本さんの紡ぐ文章や言葉はとても美しい。その描写に読んでいてハッとする。その情景が自然に目の前に浮かんでしばし時間の流れがゆるやかになる。
その美しさと少女への残酷さのアンバランスが違和感となって気持ちに引っかかるのだけどそのアンバランスだったり、違和感だったりがきっとクセになってしまうのだろうな。そこに魅力を感じてしまうのだろうな。

少女の父がどれほど彼女を愛しているか、大事にしているか、じんと伝わる会話がある。
彼女がそれで救われただなんてそんな簡単なものじゃないけど、でも親に愛されているんだという絶対的なもの、それが彼女の毅然たる行動をさせたものだとしたらなんとそれは力強い愛だろうか。
父の言葉を受けて彼女が見た空と雲。
「振り返ると、広場の上に広がった青空をものすごい速度で流れていく雲が見えます。それは、千切れてはぐれた雲の子供が、その先のもっと大きい親雲を追いかけているようでした。」
彼女はまだ親を必要とする幼い子供でだからこそこの言葉にぐっときてしまった。と、同時に純真な子の心に土足で踏み込み汚していった大人の身勝手を許さない、と拳を握った。

読み終えてももやもやしたものは晴れず、わだかまりが残る。そんな読後感だが、ラストは物悲しくも美しい。

読了:2007年12月
かりさ | 著者別さ行(島本理生) | comments(6) | trackbacks(4) | 

『大きな熊が来る前に、おやすみ。』島本理生

大きな熊が来る前に、おやすみ。
大きな熊が来る前に、おやすみ。
島本理生/新潮社
徹平と暮らし始めて、もうすぐ半年になる。だけど手放しで幸せ、という気分ではあまりなくて、転覆するかも知れない船に乗って、岸から離れようとしている、そんな気持ちがまとわりついていた――。新しい恋を始めた3人の女性を主人公に、人を好きになること、誰かと暮らすことの、危うさと幸福感を、みずみずしく描き上げる感動の小説集。
異性を好きになる。一緒にいたいと思う。その人のことをもっと知りたいと思う。その恋が互いに初めての恋でなければどうしたって相手の過去の時間を共有した別の誰かに嫉妬するのと同時に、どんな風にその人と過ごし、その人をどれだけ愛していたか知りたくなる。知りたくないのに知りたくなる。
そうして二人の間を隙間なく埋め、時間を多く共有するようになって。その先には穏やかな幸せの形が育っていくはずだったのに。

愛する人から受ける仕打ち。それは痛みを伴って心を深く抉る。見えないけれど血の滲み出る痛みがしんしんと広がってそれはやがて乾いてかさぶたになってしまっても、しつこくこびりついて絶対に剥がれない。そうして傷ついた心を抱えて人はまた人を好きになってしまうんだろうか。無防備に愛することの出来ない何かしらの闇を抱えた女性3人のそれぞれの新しい恋。
表題作「大きな熊が来る前に、おやすみ。」「クロコダイルの午睡」「猫と君のとなり」の3編。島本理生さん初の短編集。酒井駒子さんの表紙イラストが目を惹く。

ここに彩られる闇の色はかなりの濃度を持って少なからず読者を打ちのめす。島本さんの綴る瑞々しい文章の中にひっそりとポトンと落とされている黒い染み。見えないけれど確実に存在する闇。それは与えられてしまったら絶対落とせないものであり、時々ハッとするほど色濃く滲み出る。
ちょっとダークに彩られた物語がとても印象深く残る短編集。一見絵本のようなほのぼのさを持ったタイトル「大きな熊が来る前に、おやすみ。」に秘められたもの。「クロコダイルの午睡」ではそのダークさがさらに色濃くなり、「猫と君のとなり」では不安感が生まれるもほんのり淡く色づくラストにホッとしたり。

特に印象深かったのが「クロコダイルの午睡」。主人公のちょっと屈折した心がやがてとんでもない結末を自ら招いてしまう。苦手で仕方ない男の子の放つ言葉に戸惑いを感じながらも気がつかないところで惹かれていってしまう。それに抗おうにも好きという感情は嘘をつかない。でも彼には彼女がいて。その彼のために地味な自分を変えようとする主人公の行動がものすごく痛々しくて、ついと目を逸らしてしまいたくなる。けれども理解できてしまうから読んでいて息苦しい。好きなんだけど彼の無頓着な言葉に傷つけられて。その揺れる過程に目を離せない。淡々と冷たく流れる空気がさらに痛々しさを増してゆく。彼女の行動、その代価はあまりにも大きい。

恋は難しい。実を結んでも難しい。恋の濃度だったり形だったりそれが保たれることは決してない。相手の過去に捕らわれたり、現実に悩んだり、過去の見えない不安にも苛まれる。相手の自分への愛の深さを推し量ってみてその結果に沈んでしまったり。恋はだから難しい。難しいけれどそれでもやっぱり人は恋せずにいられないのだ。それがどんな道すじを辿ろうとも。

読了日:2007年5月7日


島本作品はまだ2作しか読んでいなくて是非また読みたいと思いながらなかなか叶わずにいて。今回は酒井駒子さんのイラストに惹かれて手にとってみました。恋愛ものはあまり得意ではないのですが、ここに流れるダークな雰囲気はなかなか好きでした。
でも。今作は短編3編ともDVが関わっています。特に表題作「大きな熊が来る前に、おやすみ。」では主人公の行動に理解出来ず「なんで!?」とつい問い詰めてしまいたくなってしまうほど。何故戻る?その恐怖感とずっと隣り合わせでいられるの?と本当に理解しがたい。理解しがたいのだけど、恋って愛ってそういうもんなんだなぁ、とも思います。だからやっかい。とてもやっかいです。
ダークなお話しばかりではありません。ラストは同じテーマを扱いながらもほんわかさを感じられてホッとしました。
かりさ | 著者別さ行(島本理生) | comments(8) | trackbacks(5) | 

『リトル・バイ・リトル』島本理生

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リトル・バイ・リトル
島本理生/講談社文庫
ふみは高校を卒業してから、アルバイトをして過ごす日々。家族は、母、小学校2年生の異父妹の女三人。習字の先生の柳さん、母に紹介されたボーイフレンドの周、二番目の父。
「家族」を軸にした人々とのふれあいのなかで、わずかずつ輪郭を帯びてゆく青春を描いた、第25回野間文芸新人賞受賞作。

表紙の女の子の表情がとってもいい。作中に登場する小学2年生のユウちゃんを重ねてしまう。ちょっとおっとりで食べるの大好きなユウちゃん。

2度離婚した母と異父妹と私。この3人の暮らしは父親が欠けているだけでどこと何ら変わることはない。母親がちょっと大らか過ぎるかな、ってだけ(このお母さんなかなか素敵) 。きっと母親に似たのだろうと思わせるユウちゃんのおっとりぶりも可愛い。そんなのんびりな2人の間で一人悶々とするふみだが少しずつ少しずつ周りと歩調を合わせ始める。
ふみを囲む人々がとても魅力的。彼らによってふみの中で止まっていた時間がまた秒針を刻むようにリズムをとって進んでいく。特に周との出会いはふんわりと柔らかく優しくふみを包んだのであろう。

島本さんの文章は情景を描くのが上手い。まるで本当にそこに自分がいるような気持ちにさせてくれる。鮮やかにイメージ出来るのだ。時に本のほうから拒絶されているような違和感を感じるものもあるが、島本さんの紡ぎだす文は私の感性と気持ち良く呼応してくれる。読み終えた後、ここに流れる穏やかな時間にもう少し浸っていたくてまた最初から文章をなぞっている。

読了日:2006年1月26日
かりさ | 著者別さ行(島本理生) | comments(10) | trackbacks(9) | 

『生まれる森』島本理生

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生まれる森
島本理生/講談社
初めて知った恋の深い痛みと、ゆるやかな新生を描く20歳の恋愛小説。
これほど胸をしめつけられながら読んだ本はなかっただろうと思う。それも終始。主人公の想いがどのページにも沁みついていてその静かながら激しく熱いものが読み手にもじんわり伝わってくる。不確定さ不安定さが常にまとわりついて苦しかった。
恋愛ってその形によっては苦しみも違ってくるんだなぁ。でもその苦しみはやがてゆるゆると開放に導かれ、それを踏み台に新しく生まれ変わる。今度こそ幸せになって欲しい。そう応援したくなる。

初めて島本さんの文章に触れましたが、読んでいてものすごく自分の肌に合うことを実感。いつまでも触れていたいと感じるくらい心地良かった。感性ある人というのは同じものを見ても切り取る部分が違うのだろう。ハッとさせられる描写が散りばめられていてそれを発見する度、新鮮な空気がすぅーっと吹き寄せてくるような感覚を覚えながら読んでいました。
是非他の作品にも触れてみたいと思います。

読了日:2005年6月17日
かりさ | 著者別さ行(島本理生) | comments(4) | trackbacks(7) |