ひなたでゆるり

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『八本脚の蝶』二階堂奥歯

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八本脚の蝶
二階堂奥歯/ポプラ社
私という一冊の本を、私が破棄してはいけない? いけない。そんなことをしてはいけない。私は、物語をまもる者だから。今も、そして死の最後の瞬間にも。若き女性編集者の、深遠で切実な心の記録。伝説のウェブ日記を書籍化。

彼女の中に流れる耽美な世界は心地良い。

二階堂奥歯さんの名を知ったのは、二階堂さんが自ら命を断った数日後であった。いつも巡回するいくつかのサイトで訃報を知り、彼女のweb日記を訪れた。最新記事の奇妙な文章が「最後のお知らせ」としてそこに違和感を残して存在していた。それが二階堂奥歯さんの日記「八本脚の蝶」との出会いだった。衝撃を受けた。たった2日前に亡くなった人の日記である。彼女はもういないのに、彼女が書いた文章はこうしてここに残っていること。そしてこの先決して更新されない主のなくなった日記。それから時間を忘れて貪るように読んだ。二階堂奥歯という人の思考を知りたい一心で、そして何故命を断たねばならなかったのか、その原因を探りたかった。
結果、自分以外の者の思考など到底理解出来るものではない。原因を探るだなんておこがましい。すぐに後悔に襲われた。それよりも素直に彼女の紡いできた世界を読んでみよう。水を飲むようにごくごくと休みなく。
それから幾度となく日記を訪れ、何を考えるでもなく漠然とした思いでそこに佇む。そんな日々をしばらく過ごしていた。それから私も日々の雑多に紛れ、奥歯さんの日記のことも時々思い出すくらいになった。そうしていつしか思い出すのも稀になった。

奥歯さんのweb日記が書籍化になることを知り驚いた。あの日記が本になる…。密かな訪問をいつの間にか心の安らぎとしていたあの場所が活字になる。不思議な感じだった。形として手に取ることが正直怖い気もした。でもそれ以上に奥歯さんの世界の重さをずっしりと感じたいという気持ちのほうが勝ったのかもしれない。そうして今『八本脚の蝶』は私の手にある。
装丁がとても素晴らしい。この色合いが何とも言えない。本を開き表紙側から見るとそこにはうっとりするような美しい羽を広げたそれが今まさに飛び立つかのような臨場感を帯びて描かれている。

書籍になって、縦書きで読んでいるとそれまでうすぼんやりとしていた奥歯さんの輪郭がくっきりと浮かび上がってきて、その思考がなだらかに入り込んでくる。そして力強さを感じる。か弱い精神を当時は感じていたのに、今ここに存在するものはとても強い。

先日、久しぶりにweb日記へ行ってみた。あれから3年になろうとしているが、あの頃と何ら変わらず相変わらずの静謐さで存在していた。ずっと更新されないままのしかし朽ちていくことの無い日記。懐かしかった。

彼女を抱きしめるようにそっと本を抱く。ふと本から温度が発せられ温かなものが私の皮膚を肉を血液を通して流れ込むような感じを覚える。彼女の肉体はもうこの世にないけれど、精神と魂はこうして受け継がれる。

読了日:2006年2月1日

参考記事
二階堂奥歯『八本脚の蝶』(ポプラ社)ができるまで
かりさ | 著者別な行(二階堂奥歯) | comments(4) | trackbacks(1) |