名探偵に薔薇を 城平 京/創元推理文庫
怪文書『メルヘン小人地獄』がマスコミ各社に届いた。その創作童話ではハンナ、ニコラス、フローラが順々に殺される。やがて、メルヘンをなぞったように血祭りにあげられた死体が発見され、現場には「ハンナはつるそう」の文字が……。不敵な犯人に立ち向かう、名探偵の推理は如何に?第八回鮎川哲也賞最終候補作
本書『名探偵に薔薇を』はまさに瀬川みゆきの物語である。この孤高の名探偵の苦悩は切々と読み手の胸に訴えかけてくる。
第一部「メルヘン小人地獄」と第二部「毒杯パズル」の二部構成からなるミステリ。メルヘン小人地獄という不気味な童話をなぞるように起きる殺人事件。小人地獄事件と名付けられた事件を描く1編とそれを引き継ぐ2編の構成が実に良く出来ていてこういうミステリを読める幸せを久しぶりにしみじみ噛みしめた。特に2編目の「毒杯パズル」が秀逸。「メルヘン小人地獄」では謎のまま終わった瀬川みゆきにきちんと視点をあて、彼女の内側に秘めたものを開示させる。その頃には読み手はすっかりこの名探偵とそれを取り囲む登場人物たちに魅了されているのだ。故に終盤の出来事は感情を揺さぶられてどうしようもなくなる。私なんぞはついついぽろぽろと涙を零していた。
文体が美しい。詩的である。語られる文章にはリズムがあり、また表現が豊かである。ひとつのものを描写するのにこれほど相応しい言葉があるものなのかと、いちいち感嘆しながら読み進んでいた。死体から発する腐臭さえ感じるようなさまである。しかしそれは決して不快などではない。美しくすら感じる。ミステリでありながら文学を読んでいるような不思議な文体が、凄惨たる事件をさらに色濃く不気味に仕立てている。
本当の真実に至ったときその悲しみは計り知れない。
その身に鋼の鎧を纏い、今まさに戦わんとする彼女の真に抱えるものを見たとき、その鎧は脆くも崩れ落ちる。瀬川みゆきという人物を形成したもの、それに重なるもの、救いようの無い事実がさらに名探偵を過酷に放り投げる。
そうか、これはもうこのままでいいのかもしれない。瀬川みゆきの物語はここで完結したのだ。だから瀬川みゆきの今後はもうあり得ないのかもしれない。
でもきっと彼女に出会える日を「私も」待ち続けるのだろう。
読了日:2006年2月17日
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1/18:購入本(2006/1/18)
すみません。↑このような感想を書くと「この本すごく良かった!最高〜!」とかいう素直な感情を書けなくなるので、こういう形で別バーションで書き足してみます(笑)
いや、本当にこの作品に出会えて最高の喜びと幸せを感じています。もしかしたらもう出会えなかったかもしれないし、読みたいということすら忘れてしまっていたかもしれないし、今こうして感動を味わっている自分がいることに奇跡すら感じています。
拙い私の感想でも興味を持って下さいましたら、是非手にとってちょろりとでも読み始めてみてください。きっとその不思議な冒頭に引き込まれてしまうことでしょう。そうして本書と出会った方が同じく面白い!と感じてくれたら嬉しいです。
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