ひなたでゆるり

読書のコトとちょっぴり日々のコトブログ

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『短篇集』柴田元幸篇

短篇集
短篇集
柴田元幸篇/ヴィレッジブックス
この人に書いてもらえたら最高、と思った9人が書いてくれました。柴田元幸
収録作家:クラフトエヴィング商會/石川美南/戌井昭人/円城塔/小川洋子
Comes in a Box/栗田有起/小池昌代/柴崎友香

クラフトエヴィング商會「誰もが何か隠しごとを持っている、私と私の猿以外は」
戌井昭人「植木鉢」
栗田有起「「ぱこ」」
石川美南「物語集」
Comes in a Box「朝の記憶」
小池昌代「箱」
円城塔「祖母の記録」
柴崎友香「海沿いの道」
小川洋子「『物理の館物語』」

柴田さんの編集作品たちと、クラフトエヴィング商會の装丁。
宝箱のような素晴らしい短篇集。
ここで円城さんの作品を読めるなんて、嬉しい。そしてとってもわかりやすく読めたことがさらに嬉しい。

小池さんの「箱」、円城さんの「祖母の記録」、小川さんの「『物理の館物語』」がとりわけお気に入り。
そして石川美南さんの「物語集」。
石川さんの作品がそれはもう凄まじい魅力。
さらっとは読むことの出来ない歌の数々。その魅惑的なこと。
言葉ひとつひとつが紡がれた時完成された世界の独特さに絡めとられます。
素敵すぎる。嬉しい出会いをしました。

石川さんの歌集が読みたいなぁと。
とりあえず石川さんの作品が読めて買えるのはこちらのようです。⇒「山羊の木

読了日:2010年4月23日
かりさ | ジャンル別(アンソロジー) | comments(2) | trackbacks(0) | 

『蝦蟇倉市事件2』

蝦蟇倉市事件2 (ミステリ・フロンティア)
蝦蟇倉市事件2

北山猛邦・桜坂洋・村崎友・越谷オサム・秋月涼介・米澤穂信/東京創元社
海と山に囲まれた、風光明媚な街、蝦蟇倉。この街ではなぜか年間平均十五件もの不可能犯罪が起こるという。マンション、レストラン、港に神社、美術館。卒業間近の大学生、春休みを迎えた高校生、会食中の社会人、休日を過ごす教師。舞台も人も選ばずに、事件はいつでも起こっている―。様々な不可思議に包まれた街・蝦蟇倉へようこそ!今注目の作家たちが、全員で作り上げた架空の街を舞台に描く、超豪華競作アンソロジー第二弾。

北山猛邦「さくら炎上」
桜坂洋「毒入りローストビーフ事件」
村崎友「密室の本―真知博士 五十番目の事件」
越谷オサム「観客席からの眺め」
秋月涼介「消えた左腕事件」
米澤穂信「ナイフを失われた思い出の中に」

1巻も2巻もそれぞれ趣きが違っていてそれぞれの世界設定に大満足。
妖艶な印象の北山さん作品「さくら炎上」は好きだなぁ。
そして真知博士がこんなに登場するとは。
意外にみなさんお気に召したキャラのようです。
個人的に真知博士をもっと魅力的に感じていたらもっとずっと楽しめたのかしら?とそれが少し残念。

米澤さん作品は堪能しましたが(やはりさすが、という感じ)、いやはやこれに関連している作品を積んだまんまでして…読まないとね。

読了日:2010年3月16日

【関連記事】
「『蝦蟇倉市事件』特設ページ」
かりさ | ジャンル別(アンソロジー) | comments(0) | trackbacks(0) | 

『蝦蟇倉市事件1』道尾秀介 伊坂幸太郎 他

蝦蟇倉市事件1 (ミステリ・フロンティア)
蝦蟇倉市事件1
道尾秀介・伊坂幸太郎・大山誠一郎・福田栄一・伯方雪日/東京創元社
海と山に囲まれた、風光明媚な街、蝦蟇倉。この街ではなぜか年間平均十五件もの不可能犯罪が起こるという。自殺の名所に、怪しげな新興宗教や謎の相談屋。不可能犯罪専門の刑事や、とんでもない市長、そして無価値な置物を要求する脅迫者―。様々な不可思議に包まれた街・蝦蟇倉へようこそ!今注目の作家たちが、全員で作り上げた架空の街を舞台に描く、超豪華競作アンソロジー第一弾。

道尾秀介「弓投げの崖を見てはいけない」
伊坂幸太郎「浜田青年ホントスカ」
大山誠一郎「不可能犯罪係自身の事件」
福田栄一「大黒天」
伯方雪日「Gカップ・フェイント」

蝦蟇倉市(架空の街)を舞台にした競作アンソロジー。
こういうの大好きなので読む前からわくわくしてました。
競作によって作り上げられる蝦蟇倉市が何とも怪しげで、その雰囲気だけでも美味しい。
読み始めて道尾さん、伊坂さんの作品に「おお〜さすが!」と大満足してましたら、最後の伯方さんで満足度が引っくり返り個人的に拍手喝采。いや〜面白かったです。
格闘技ミステリ?はて?と慣れないながらクスクス笑い、大いに満足したのでした。

地図を見ながら、今のこれはどこで起きているんだろう?なんて読むのが楽しかった。
2巻も楽しみ。

読了日:2010年2月24日

【関連記事】
「『蝦蟇倉市事件』特設ページ」
かりさ | ジャンル別(アンソロジー) | comments(0) | trackbacks(0) | 

昨日のように遠い日―少女少年小説選

昨日のように遠い日―少女少年小説選
昨日のように遠い日―少女少年小説選
柴田元幸・編集/文藝春秋
レベッカ・ブラウンの“少女”、ユアグローの“少年”、デ・ラ・メアの名作「謎」の子どもたち、20年代ソ連のアヴァンギャルド作家の愉快で恐ろしい世界、サラエボ出身の新鋭に、本邦初登場のアイルランドの女性作家…。世界と、あらゆる時から届けられた逸品が勢ぞろい。永遠に失われる前の大切な話、選りすぐりの15篇。特別付録・伝説の漫画「眠りの国のリトル・ニモ」、「ガソリン・アレー」カラー・リーフレット。

とにかく素晴らしい!と惚れ惚れする作品です。1編1編が実に魅力的。
短編といえどあまりに短すぎるお話しもあって、そこに意表突かれながらするんと読みえ終えてしまう短さの中のなんたる豊潤さ。
もう二度と戻れないあの頃のこと。それはたぐり寄せるにはあまりにも遠すぎて。

素晴らしかった(自分が好きだった)のは、「大洋」「灯台」「パン」。

覚書に。収録作品。

ユアグロー「大洋」
アルトゥーロ・ヴィヴァンテ「ホルボーン亭」
アルトゥーロ・ヴィヴァンテ「灯台」
ハルムス「トルボチュキン教授」
ハルムス「アマデイ・ファラドン」
ハルムス「うそつき」
ハルムス「おとぎ話」
ハルムス「ある男の子に尋ねました」
ミルハウザー「猫と鼠」
マリリン・マクラフリン「修道者」
レベッカ・ブラウン「パン」
アレクサンダル・ヘモン「島」
デ・ラ・メア「謎」

付録
ウィンザー・マッケイ「眠りの国のリトル・ニモ」
フランク・キング「ガソリン・アレー」

読了日:2009年8月28日
かりさ | ジャンル別(アンソロジー) | comments(0) | trackbacks(0) | 

『9の扉 リレー短編集』北村薫 他

9の扉 リレー短編集
9の扉 リレー短編集
北村薫 他/マガジンハウス
「猫」が「コウモリ」を呼び、「コウモリ」が「芸人」を呼ぶ!? たった一言のキーワードが次の物語へと引き継がれ、思いがけない展開を呼ぶこのリレー短編集には、冒険心と遊び心がいっぱい。個性豊かな凄腕ミステリ作家たちが勢ぞろいしたこの本には、最高に愉快な体験がつまっています。豪華執筆人によるチーム力もまた絶妙。「あとがき」までリレー形式にこだわった欲張りな一冊が出来上がりました。

収録作品(リレー作品)
「くしゅん」北村薫→「まよい猫」法月綸太郎→「キラキラコウモリ」殊能将之
→「ブラックジョーク」鳥飼否宇→「バッド・テイスト」麻耶雄嵩→「依存のお茶会」竹本健治
→「帳尻」貫井徳郎→「母ちゃん、おれだよ、おれおれ」歌野晶午→「さくら日和」辻村深月

ひゃ〜この豪華な執筆陣ですよ!これはもう素通りするわけにはまいりません。
ということでいそいそとわくわくと読み始めましたら面白いこと、面白いこと。
いや、結構気楽に読み始めていたのですが自然身を構えて力んで読んでおりました。

お題のバトンを渡されてそこから紡ぎだされる物語の多種多様さには感動。
どれも楽しめましたが特に素晴らしかったのは歌野さんでして。
貫井さんからのバトンを実に上手く使って貫井さんもビックリのお話しに。
アンカーの辻村さん「さくら日和」も綺麗でした。

あとがきも秀逸!

読了日:2009年8月27日
かりさ | ジャンル別(アンソロジー) | comments(0) | trackbacks(0) | 

「Story Seller」2008Spring

Story Seller (ストーリーセラー) 2008年 05月号 [雑誌]

一人の編集者さんの手によって完成した「Story Seller」。
編集者さんの独断と偏愛によって生まれた本です(と、前書きに書いてある)。
豪華執筆陣に惹かれて購入しましたが、いや〜素敵な雑誌です。すっかり堪能しました。
これは是非とも次を作って欲しいです!切望いたします!

以下、感想。
「首折り男の周辺」伊坂幸太郎
まさに伊坂節全開のストーリー。
これだけの短い話で伊坂さん特有の(ここでいうと「疑う夫婦」「間違われた男」「いじめられている少年」の三部構成)交互に展開するストーリー、伏線、登場人物の関連性が見事に構成されていて、さすがです。巧いです。
連続殺人事件の犯人が隣人の男ではないか、と疑う夫婦の間の抜けたやりとりが可笑しい。タイトルが物騒なのだけど、何故かふっと笑みがこぼれる温かな感じ。

「プロトンの中の孤独」近藤史恵
『サクリファイス』の外伝。
本作を読み終えてすぐにこちらを読んでもう切ないったら!でも嬉しく読みました。本作とはちょっと違ってこう人間関係の複雑な部分は軽めだし、ミステリ度はほとんどゼロに近いので純粋にスポーツものとして楽しめました。
近藤さんがロードレースをリアル観戦したことがない、って告白にビックリ。なんと!それでこれだけの臨場感。す、素晴らしい。
続編はリアル観戦?されるようなこと書かれていたのでこりゃぁもっともっとすごいことになりそう!?と今から期待であります!

「ストーリー・セラー」有川浩
さすが有川さん、すごいですストレートです。
読んでいて恥ずかしがりながらも、でも今回はちょっと趣が違っていていつもよりも読むトーンを抑えて読んでました。ここでは一番の長編ながらもそんなもの一切感じさせないくらいぐいぐい引かれていました。

運命の出会いがあって結ばれてこの先の未来を共に歩こうって一緒に歩き出すけど…それっていつまでなのかな。
どっかでぶった切られることがそれが近いのか遠いのか。
ちゃんとこんな風にして相手に言えるかな。言える人生でありたいな。
悲しいけれど素敵な話。でも悲しい。深い深い愛の物語。

「玉野五十鈴の誉れ」米澤穂信
米澤さんのまた違う一面を見せてもらった作品でした。
いや、これ好き。この濃密なけれど冷ややかな雰囲気はたまらない。
人間の狂気がどれほどの不幸を生むか。ゾッとする怖さも帯びる。
旧家小栗家の跡取り純香と使用人五十鈴の物語は古典文学の香り高く大変に美しい。
美しいながらそこに潜む黒いものが恐怖を生む。
背負ったものを全うする使命。それがどんな立場であり、どんな形であれ、使命に純粋であればあるほどやがて壊れていくものなのか。

「身内に不幸がありまして」「北の館の罪人」「山荘秘聞」「玉野五十鈴の誉れ」とバベルの会シリーズになるわけですね。

「333のテッペン」佐藤友哉
どんなダークな物語が展開されていくのかと身構えてましたけど、意外にサラッとしてました。奇想天外なのは相変わらずですが、もっとこうグロさがあるのかと勝手に思ってましたから。見え隠れしているのがここでは逆に良かったのかな。
是非土江田の過去の仕事の話を読みたいです。かなり黒そう。

「光の箱」道尾秀介
いや〜やられた。すっかりやられた。
実は道尾さん初読。気になる作家さんなのですが縁がなくてなかなか読めずにいました。
全体に暗さをまとっていたのでそこに到達するものも期待ができなかったのですが…こんなにも温かな光に満ちた物語。道尾さん、巧すぎです!惚れました。

「ここじゃない場所」本多孝好
普通の家庭に生まれ育ち、姿も能力も取り柄のないごくごく普通の少女と、複雑な生い立ちであり、特異な能力を持つ少年との出会い。ラスト、ちょっと切なかったな。

アゲハの存在や謎の4人組のこと、もっと教えて〜とジタバタしているうちに終わってしまったので肩透かしだったんですが、あとがきに4人組とアゲハの話を書いているってあって、「おおおー」と。は、早く読みたい。
かりさ | ジャンル別(アンソロジー) | comments(10) | trackbacks(1) | 

『コイノカオリ』角田光代他

コイノカオリ
コイノカオリ
角田 光代 島本 理生 栗田 有起/角川書店
人は、一生のうちいくつの恋におちるのだろう。ゆるくつけた香水、彼のタバコや汗の匂い、好きな人に作った特別な料理―。柔らかく心に迫る恋の匂いをモチーフに繊細に、あるいは大胆に綴った6つのラブストーリー。
アンソロジーは1冊でドロップのようにいろんな味を味わえて良い。誰の何を読もうかしばし考えてしまう時などはアンソロジーを選ぶとそこからまた読みたい作品が増えて道が開けるようでこれまた良い。そうして知らなかった作家との出会いもあったりしてますます良い。良い事づくめ。そして『コイノカオリ』との出会いは忘れがたい作品とその作家との出会いでもあった。
宮下奈都、その人である。この「日をつなぐ」という作品はここに登場する女性の生活そのものがかつての私自身であり、その情景や気持など読むにつれその頃の自分がまざまざと思い起こされて呼吸が出来ないくらいの切なさが広がり、胸を掴んで必死に読んでいた。読み終えてはらはらとこぼれる涙にはどんな意味があったのか。あまりにその思いが溢れすぎて自分でも理解は出来ないが、そうして日をつないでいったこと、いつしかプツンと途切れそうになったこと、それでも時間を日を紡ぐように生きねばならないこと。いろんな思いを重ねてその日々を送ってきた私にはだからこのラストには少しの不安を感じ、けれどももしかしたら光が見えるのかもしれないと希望を感じ、相反するものが行きつ戻りつするのを感じながら読み終えた。読み終えてまた戻りたくなって最初から読み直し、そこに広がる彼女と彼の思いだったり、彼女の作る料理だったり、そうしながらも報われない思いだったりがいっぱいに広がっているのをそれが自分に流れ込んでいくのをひしひしと感じていた。豆を煮るシーンでは豆の放つ懐かしいような温かいような独特の香りが漂ってくるようで、その香りがさらに切ないという感情をつれてくる。
「おかえり」と家族が出迎えるよりも早くその日の夕飯の香りが帰宅する者を迎え、その香りできっと疲れが癒えていくのだろう。そうして家族が自分を待って「おかえり」と笑顔で迎えてくれることに幸せを感じるのだろう。そうしたら笑顔で「ただいま」を言えるだろう。毎日毎日この繰り返しが日をつなぐことであり、時にはつなぐこと自体が困難になることだってあるだろうけれども、限りあるこれからの生活がずっと変わりなくつないでいけたらいいな、と私は改めて思うのである。そう思わせてくれた作品であった。

あまりにも素敵な作品であったために1編にここまで書いてしまったけれども(しかも勝手に想像を膨らませているし)、他の作品もとても素敵であったので各作品の感想を以下に。

「水曜日の恋人」角田光代
素晴らしいです。こういう恋の話を書かせたらやはり角田さんは最上級のものを用意されるのですな。こういう言葉で書き表せないような(いや、単に私が書けないだけだが)切ない感情がどうしようもなく押し寄せてきて「はぁぁぁ」なんてため息ついたりして。

「最後の教室」島本理生
全体的に夜のイメージ。夜間学校の話しなのでまぁ仕方ないのだけど、物語の色合いもどちらかというと薄暗い感覚。ふむ、この女性のそれはちょっと気がつかないのはどうなのかしら?とそこにばかり疑問が集中してしまい、不自然さを最後まで拭えなかった。

「泣きっつらにハニー」栗田有起
ああ〜栗田さんだ。読み始めて久しぶりの栗田さんの文章に胸が躍った。理屈なくこの人の文章や世界や物語が好きである。今回もまた独特な世界が広がっているのだけど、ここには濃厚な香りと共にこれまた切ない片思いがあって。そこはそれ、栗田ワールドがここでも全開でこの展開でこうまで明るいこの子って!?と主人公の女の子の健気さについ惚れこんでしまう。

「海の中には夜」生田紗代
夜の海って幻想的なのだけど、何からそこから出でてくるような感覚に捕らわれて恐怖感が増す。子供の頃新潟の祖母の親戚宅へ遊びに行ったことがあるが、海と密接に生活するさまが東京の下町育ちの私にはすごく新鮮で暇さえあれば海にいた。
作中にある「空の青と海の青という、同じ色だが全く質感の違う二つが目の前で上下に組み合わさっていることに、なぜだか胸がすくわれた。」という文章の質感の違いというところに当時の私も思いを馳せていたことを唐突に思い出した。磯の香りとともにその記憶がよみがえった。胸がすくわれるという感覚はまだ子供だったためか感じなかったが、その綺麗な青に逆にホームシックになって泣いた覚えは、ある。
もうすぐ終わるという感じ。あれはやっぱり切ないなぁ。好きなのになぁ。

「日をつなぐ」宮下奈都
上記に散々どれだけ好きなのか書いたので、一言。ラストがまた素晴らしくいい。

「犬と椎茸」井上荒野
タイトルに「?」となった作品だが、実は「日をつなぐ」に次いで好きだったりする。この枯れかけた感じがたまらなく良い。そうして何かを期待する気持ちが芽生えていく残酷さも。けれどもそこからはきっと何も生まれない。そう、きっと。

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人の記憶と嗅覚は密接な関係があると言うけれど、確かにそれは暮らしの中でも感じることはある。そしてそれは恋の記憶も然り。私の「コイノカオリ」はどんなものだろうか。今改めて思い出してみるが意識すればするほど遠のいていく。こういうのは意識せずふっとよみがえるのがいい。そうしてしばしその記憶に漂ってみるのも。

読了日:2007年4月15日
かりさ | ジャンル別(アンソロジー) | comments(4) | trackbacks(2) | 

『川に死体のある風景』歌野晶午・他

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川に死体のある風景
綾辻 行人 有栖川 有栖 歌野 晶午他/東京創元社
6つの川面に浮かぶ死体。描かれる風景-。綾辻行人・有栖川有栖・歌野晶午・大倉崇裕・佳多山大地・黒田研二の実力派作家6名が「川と死体」をテーマに競作。美しくトリッキーなミステリ・アンソロジー。

川と言えば隅田川を真っ先に思い浮かべる。物心ついてから独立するまで隅田川のすぐそばに建つ団地に住んでいた。遊び場所と言えばその隅田川の土手である。堤防に登りその川の流れを眺めていたこともあった。この流れの先はどこまで繋がっているのか…などと子供ながらに興味が湧き延々と川に沿って歩き続け、帰り道がわからなくなり迷子になったこともあった(たまたま知り合いが見つけてくれて無事帰ることが出来たが。今のご時世ならどうなっていたことやら…それこそ川ミス?ぶるぶる)。
毎日毎日飽きもせず良く土手で遊んだものである。その後独立してから住んだ場所も隅田川のすぐ近くだった。荒川遊園地に近く、天気の良い日はその川の遊歩道を散歩した。隅田川がいつでもそばにあったのだ。季節が変わるごとに川面の色も陽を浴びて輝くキラキラ感も変化する。何の変哲もない川の流れ。だが何故かその流れを見に足は自然と向く。体のどこかと呼応し呼び寄せるのだろうか。精神状態が不安定な時ほどその力は強くなるようだ。その不思議な力。川に棲む何かが私を呼ぶ。そんな風に良く妄想したものだ。そこに死体を浮かべてみよう…想像力豊かな脳内でそれはおぞましい光景を作り出す。それは怪奇じみた恐ろしい光景。

さてアンソロジー『川に死体のある風景』である。タイトルに惹かれる。涼やかなカバーデザインに惹かれる。テーマを川に死体にした競作。川ミス。面白い企画ではないか。そして実際面白かった。ふぅん、川に死体を浮かべるってテーマだけでもこれだけの物語が出来てしまうんだ。それぞれ各作品のあとにあとがきエッセイを寄せているのだが、これが楽しめる。綾辻さんの幻の川ミス、読みたい!こっちのほうが本格っぽいしね(笑)以下それぞれの感想。

「玉川上死」歌野晶午
歌野さんらしいといえばらしい、作品。玉川上水と聞いてまず思うのはやはり太宰治であろう。玉川情死である。そんなちょっとロマン(と書いていいものかどうか)を感じさせる玉川を舞台にしたミステリはしかしロマンの欠片もない。あるのはどろりとした水底に沈む澱のような重たいものである。途中までは純粋に楽しめたのだが…。そういう展開かーと歌野さんらしい描き方に後味を悪くし鬱々とし。そこが歌野さんらしくて好きである。

「水底の連鎖」黒田研二
実は黒田さんの作品を読んだことがない(嘘でしょ!と言われそうだが)。読もうと思いながら縁がなかった。期せずしてこれが初黒田作品。「水底の連鎖」とは上手いタイトル。そう、まさにその連鎖である。その水底に沈む車は1台のはずなのに、同じ場所には2台の車が発見。なんで?どうして?その真相を知りたくて読む手を止められず。
あとがきの「あわあわあわあわ」が妙にはまる(笑)黒田さんは三重県出身だそう。長良川のすぐそばに住んでいるということは三重県のあの辺なのかなぁ。長良川と揖斐川が流れるあの辺りは時々往復するのだ。あの辺りの眺めはとても美しい。

「捜索者」大倉崇裕
えっと、川ミスというか沢ミス。いや、山ミス??ややなかなか面白いぞ、これ。まさかそう繋がるとは思いもしなかったためその展開に驚かされつつもああ…そうだったのか、と納得。子供の頃山登りが好きな父に連れられて良く歩かされた。人がかろうじてすれ違えるほどの狭い山道を歩きながらその下を流れる沢を見下ろす。ここから滑落したら確実に助からないだろうと、子供ながら死を意識したものである。
助けたはずの遭難者が同じ山で遺体となって見つかる。何故?そこにあるのは浅はかな人間の縮図。これはこれで悲しいではないか。

「この世でいちばん珍しい水死人」佳多山大地
佳多山大地さん…存じなかった。それもそのはず、なんとこの作品がデビュー作である。初のミステリ創作。初にして一番読み応えあり。作品の舞台の情勢を絡めて描かれるミステリはわくわくドキドキと楽しませてくれる。三平太の話、これから先また書いてもらえるだろうか。密かに期待している。だってこれはまだ序盤にすぎない。本編がきっとあるはずであろう、とは期待しすぎか。いや、是非とも三平太シリーズを!

「悪霊憑き」綾辻行人
「この世には不思議なことなど何もない」とはあの人の決め台詞だが、まさにその世界を描いている。綾辻さんには珍しい世界観。最も「川に死体」のイメージにピタリとくる作品だった。「*****」とか「*******」だとか想像するしかないものだが、どうだろうそこに思い浮かぶのはどんな悪霊だろうか。開けてみればああ、そうか…程度のものであれどラストのぞわりとした感覚は拭い去れない。この舞台、短編連作されているようなのでまた読めるのかな。楽しみである。そして書かれなかった「川ミス」、是非実現を!ううん〜でも結局幻になるのかな。そんな気もするな。

「桜川のオフィーリア」有栖川有栖
なんと美しい情景であろうか。儚くて哀しさ漂う。桜散る中の死体は神々しいほどである。有栖川さんならでは、である。あの面々が登場しまずここでにんまり。そしてあとがきでまたまたにんまり。と同時に焦りも少々(何故かって?それは以下に書こう)。ラストに相応しい作品であった。穂積のやったことを読み手はどう感じるだろうか。それぞれ受け止め方が違ってくるだろうけれど私はこれもアリと思う。なんとなく穂積の気持ちがわかってしまうのだ。では実際にやってしまうかどうかはわからないが…たぶん、してしまいそうな自分がいて少し心がざわつく。病んでいるのだろうか。
有栖川さんの中のオフィーリアとの対話の中で生まれた作品。大掛かりなトリックがあるわけではない、地味である。だが身を切るような寒さがやわらぐ季節。桜の花びらに染まる桜川(架空)。やわらかな陽を浴びてきらめく川面。そこに流れる美しき死体。秘めた哀しき過去。すべてにおいて美しい。私の中で妄想は広がるばかりである。

読了日:2006年9月9日

関連サイト
e-NOVELS特集 「ミステリーズ」連合企画 競作短編「川に死体のある風景」


以下、有栖川さんの「桜川のオフィーリア」にて書いた某作品の事に触れています。ネタばれではありませんが、未読で先入観を与えてほしくない方のために一応記事を伏せますね。(あとがきにも活字倶楽部でも触れていますので伏せることもないかなとは思いますが…。念のため)全然OK〜てな方は以下をどうぞ↓
続きを読む >>
かりさ | ジャンル別(アンソロジー) | comments(4) | trackbacks(1) | 

『Sweet Blue Age』有川浩他

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Sweet Blue Age
有川浩 角田光代 坂木司他/角川書店
できたてのセカイと、憂鬱なわたしたちの物語。
いま、最も鮮烈な書き手たちからあなたへ。あわいあわい初恋から、あてのない夜の彷徨、性のかなしみまで、甘く憂鬱な「あのころ」を閉じこめた、7つのものがたり。

Sweet Blue Age…淡く甘やかな青春時代。誰もが通り過ぎるこの時期、あなたは今その真っ只中だろうか。それとも懐かしく思うのだろうか。

蜷川実花さんの独特な色彩を映し出す写真がカバーなこの作品、ブルーの表紙を開くと、そこに差し挟まれた甘いピンク色の標題紙が意表をつく。そこに印字された銀文字のタイトル…もうそれだけでお気に入りである。
有川浩・角田光代・坂木司・桜庭一樹・日向蓬・三羽省吾・森見登美彦…7人の紡ぎだす青春の物語。作者それぞれが描くBlue Ageの頃。それはどれも眩しくちょっと切なく、きゅっと胸を締め付けたりもする。普段アンソロジーを読む機会のない私にとって、この作品は懐かしく遠い記憶をよみがえらせちょっとノスタルジックな感傷に浸ることが出来た。あまり思い出したくない痛い思い出から、今でもふわふわ浮かんでしまいそうな甘い思い出までそれはそれは年の数だけ経験した者の特権なのだろう。今青春を謳歌している(あるいはそれゆえに苦しんでいる)若い世代にもきっと呼応するものがあるはず。
まずはそれぞれの感想から。

「あの八月の、」角田光代
学生時代というのは何故にあんなに楽しいものだったのだろう。もちろんそれを通り過ぎて思い返して得られる感想なのだが、あの無邪気に日々を過ごしていた自分が誇らしくさえある。些細なことに喜んだり、悩んだり、悲しんだり…そして友達に支えられて立ち直ったり。そう友達の存在は大きかった。今でも付き合いのある友達はその頃のバカやっていた頃の友人なのだ。お互い思い返して語るのも恥ずかしいくらいの青い小娘だった。それを思い返してみることもたまにはいいかもしれないな、そんなことを思ってみたり。

「クジラの彼」有川浩
あの有川さんである。当然(と言うべきか)自衛官が出てくる(にんまり)。潜水艦が出てくるのだが、嫌な予感がしたのだ。思い当たって積読の『海の底』を取り出し、冒頭の登場人物の名前を確認。あららー予感的中。「海の底」読んでいた後だったらもっともっとにんまり出来たんだろう。まぁ順番はどうであれ、関連性があるということで、すでに「海の底」を読まれている方には嬉しいプレゼントである。で、この恋愛はちょっと辛すぎる。揺るぎない信頼を軸にしていないと危うい。こういう恋人きっと幾人もいるんだろう。頑張れ!と応援したくなる。

「涙の匂い」日向蓬
今思い返しても鼻の奥がつんとする話しだった。「あの頃の」私を描くという題材にして最もこれが秀逸なのではないだろうか。不器用な男の子への淡い恋心。複雑な環境に翻弄され、子供達はその波に抗えずただただ流されるだけ。その無力さが切ない。ここに登場する「コークス」を懐かしく思った方は同年代だね(笑)私は小学2年までこのコークスストーブの経験がある。日直は石炭を教室まで運ぶ仕事があり、火熾しなんかもやっていたんじゃないかな?遠い昔のことでうろ覚えなんだが。今の子供達には考えられないことだろう。あの匂い、もし嗅ぐことがあったらどうだろう、その頃のことをふと思い出すことがあるんだろうか。匂いと記憶は密接であるから。
ものすごく素敵な話しだっただけに最後の部分は読みたくなかった。急に現実に引き戻された感じがして…。それでもしみじみする物語である。

「ニート・ニート・ニート」三羽省吾
この7つの物語の中で一番突飛で突き抜けている。激しく心を動かされてしまった。絶対自分とは接点のない世界なだけに惹かれるものがあったのだろうか。それとも作者の描き方が巧妙なのだろうか。この先どうなっていくのか今後を読んでみたくて仕方がない。モコモコモコ…泡怪獣のくだりは最高に面白い。

「ホテルジューシー」坂木司
卒業旅行への資金繰りのためアルバイトをすることになった主人公がバイトに決めた先は沖縄の宿。そこで出会う人々や主人公の成長が描かれる。坂木さんといえば「ひきこもり探偵」である(「青空の卵」「仔羊の巣」「動物園の鳥」)。そしてここでもひきこもり探偵ファンのためのプレゼントが用意されている。そう!あの人が登場するのである。あんなもの持っているのはあの人しかいないもん、すぐ分かる。思わずその人が登場する本をパラパラ読み返したくらい。ちょっとしか出てこないのは残念だけど。
この沖縄の風土なのか住んでいる住人みんな穏やかでゆったり。双子ばあちゃんなど最高である。坂木さんが女の子を主人公にして描くのは初めて(だと思うが)なので、ちょっと違和感を感じつつも最後にはしっくり楽しめた作品であった。

「辻斬りのように」桜庭一樹
ほわんとした朝食のシーンがたまらなく好きである。ぼんやりしているお父さんもなかなか。私の父のようである(母は厳しかった。あ、今も生きています。今はずいぶんまぁるくなったのだ)。このまんまどう描いていくのだろう、と思っていたら…そうなんだ、そういうことになってしまうのか。まぁ男でいう性欲の塊の女版?ということだ。女だってそういうことはある。それはオブラートにきちんと包まれて見え隠れさせている大変慎ましやかな欲なのである。昔はね。そんな女はこうあるべきだ、とされていた時代のお話し。星のように無数に散らばる七竈の白い花…夜、それを見上げながらの行為はなかなかに美しい。7人の代償はあまりにも酷であるが、彼女がそれを受け入れるのならばいいのだろう。何となく悲しみが漂う。

「夜は短し歩けよ乙女」森見登美彦
何とまぁ不思議なオモチロイお話しだろうか。現実とファンタジーが入り混じった不思議な世界である。やんややんやとやっているところを読んでいてふっと思い描いた映像が「千と千尋の神隠し」の銭湯のシーンである。始めは普通に始まったのだ、それがだんだんとおかしな方向へ歩みだし、こちらまでどこか見知らぬ路地に迷い込んだようなぐるぐるした感覚になってしまうのだ。これは面白かった。未知なる味「偽電気ブラン」(電気ブランだって未知だが)、その芳醇なる香りや味はどんなだろう。どうか彼女と彼がその後仲良くなれますように。

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さて、この7つの物語の中で好きなものをあげるとしたら、三羽さんの「ニート・ニート・ニート」、日向さん「涙の匂い」、森見さん「夜は短し歩けよ乙女」である。三羽さんの文章はインパクトがあり、スピード感も抜群である。実は初めて読む作家さん。作品を調べてみたら…あ、『厭世フレーバー』を書いた作家さんだったのか。これは要注目な作家さんであろう。
日向さんはあまりにもノスタルジックに切なく文章を紡ぐので、他の作品が気になるところ。
森見さんは以前オススメしていただいた作品を今後読む予定。なかなかに独特な世界観をお持ちのようなので、楽しみである。

1冊で数粒の楽しみが味わえるアンソロジー、今後機会があったら手にとってみよう。そこからまた広がる世界がある。

読了日:2006年4月20日
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