密室の鍵貸します 東川篤哉/光文社文庫
しがない貧乏学生・戸村流平にとって、その日は厄日そのものだった。彼を手ひどく振った恋人が、背中を刺され、4階から突き落とされて死亡。その夜、一緒だった先輩も、流平が気づかぬ間に、浴室で刺されて殺されていたのだ!かくして、二つの殺人事件の第一容疑者となった流平の運命やいかに?ユーモア本格ミステリの新鋭が放つ、面白過ぎるデビュー作。
やや、ややや!こ、これは!いい意味で裏切られたようである。いや〜面白い。ミステリなのに面白いんである。本格なのに面白いんである。バリバリガチガチの本格ミステリかと思っていたら拍子抜けしてしまう。だからいい意味での裏切りである。
まず舞台の烏賊川市である。いかがわしである。最初から嫌な予感はしていたのだ。いかがわしい?いや、いかがわし?まぁいいや、と軽くスルーして読み進む。読み進むごとに拍子抜けの回数が増す。刑事が飄々とし過ぎる(だが砂川刑事いいキャラしている!)、事件に巻き込まれる主人公の戸村流平がアホ過ぎる、探偵の鵜飼が変人である(とても有能に思えないのだが、まぁそれは表向きか)。揃いも揃って変なのだが、何故か憎めない。面白い。たまにその面白さが鼻につく感もあるのだが、恐ろしい事に慣れっこになってしまうともっと面白いことが起きやしないかと期待してしまう。そうそう起きやしないものなのだが、東川さんはサービス旺盛である。徹底した面白ぶり。ああ、これがユーモア本格ミステリというのか、と有栖川さんのあとがきで知ることになるのだが。
まずミステリを読みなれた読者ならば、無意識にこの語りは誰なのだ?と疑問が湧くだろうし、もっと屈折した読み方をしているならば刑事が犯人ってこともあるうる、いや、探偵だって犯人かもしれない…などと余計なところにまで頭を使うことになる。が、ここでは懇切丁寧にそんな偏屈屋のミステリ読者を外れた道から軌道修正してくれる。物語における視点の問題を説明し始め、刑事たちが犯人でないことまできちんと書かれている。それでも「本当か?」と疑ってしまうのはどうにも嫌なものだが(笑)よほどひどい騙され方をしているとこういうことになる…。なんにせよ無駄な労力を使わずに済んだ事は感謝なのである(いや、本当にあれこれ考えすぎて頭ぐるぐるするからね。正直へろへろになるんだから。考えすぎ!って言われるかもしれんけど)。
トリック自体は地味である。バリバリガチガチの本格ミステリのトリックを軽く見破る読者には物足りないくらい地味である。いや、ホント。私はどうも騙されやすいタイプで、必ず気持ち良いくらいコロリと騙されてもちろんトリックも見破れないのだが、今回ばかりはこんな私でもわかってしまった。だからどうとかいう問題ではない。たぶんにこれは東川さんの思惑にはまっているのだ。わかりやすいトリックで結構、別にあっと言わせるつもりはありませんからー、ときっと思っているに違いない。ただ、ただである。何故第一事件の犯人は犯行に至ったか、その動機が分からなかった。で、その動機がわかったとき、ええ〜それでなの?そうなの?と少し複雑な気分。そこまでは見破れなかった私もまだまだだな。っていうかそこまで読めた読者っているのか?だとしたらその人はすごい。
さて、どうやらこれはシリーズになっているらしい。戸村流平が今後どのような形で登場してくるのか皆目検討がつかないが、なんにせよ結構気に入ってしまった私にとっては嬉しいことである。
有栖川さんの言葉を借りれば「私は、この作家からしばらく目が離せそうにない。」まさしく!である。ユーモア本格ミステリのエースがこれからどのようなミステリを楽しませてくれるのか、非常に興味深い。いや〜楽しみな作家さんがまたまた増えましたぞ!
ちなみに私はこちらの表紙の方が好き↓ノベルスのほう。
読了日:2006年8月8日
東川篤哉さん、初作品でした。以前『館島』を借りてそれから読み始めようと思っていたのですが、デビュー作が文庫化されたこともあってとりあえずこちらから読もうと、『館島』は後で読む事に。そしてデビュー作『密室の鍵貸します』を読んだのですが…まぁいい意味で裏切られたというのは上記の通り。こんなに面白いものとは思わなかったのでこれは嬉しい誤算でした。烏賊川市がシリーズ化されているとのことなので、他の作品も追いかけていくつもりです。
ちなみにどうやら『館島』は烏賊川市が舞台ではないようです。ので、戸村流平も鵜飼探偵も登場しません。でもこれもどうやらユーモア本格ミステリのようなのですよ。のっけから笑えます。
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