ひなたでゆるり

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『告白』町田康

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告白
町田康/中央公論新社
人はなぜ人を殺すのか――河内音頭のスタンダードナンバーで実際に起きた大量殺人事件<河内十人斬り>をモチーフに、永遠のテーマに迫る渾身の長編小説。殺人者の声なき声を聴け!

明治26年、河内水分で実際に起きた「河内十人斬り」を題材に書かれた作品。
とにかく時間を費やしてこの作品と付き合ったこの数日はたぶん忘れられないだろう。圧巻である。秀逸である。
題材が人殺しであるため、暗く陰気なイメージを持った作品ではあるが、これを彩るものは意外にも明るい色合いである。熊太郎ののほほんとした性格が全体を和らげていると共に折に盛り込まれたユーモアさが笑いを誘う。だがそれも後半になってくるとずんずんと重さを増し、熊太郎の怒りとどす黒い血の色に染まる。その絶望的な色が熊太郎の最期の涙に見たとき、虚無感が急激に襲い読み手の心はさらなる深みに突き落とされる。読後はただただ呆けるばかりである。それはこれだけの大作を読み終えた脱力感からなのか、熊太郎の人生を思ってのことなのか、未だ整理はつかない。

なんでこうなってしまったのか…あかんではないか。強烈な河内弁、熊太郎の思弁、想い、哀しみ、彼の人生何だったんだろう…と思うと虚無感が広がりやり切れなさで胸がざわつく。彼の人生に同情はしないが、生まれ育った環境がもし違ったらあんな結末を迎えることはなかったのではないかな、とそれが残念でならない。頭で考えすぎて上手く言葉にならず(いや、頭の中でぶわあ広がる思弁を声に出して伝えるって難しいもんよ。自分もそういうところがあるから熊太郎のこれは本当に良く分かる。まぁそれにしても表現下手ではあるが)、それ故に他人と上手く意思疎通が出来ず孤独を抱えていく。いや、もしかしたら本当に幻想ばかり見る狂人だったのか?と読み手も疑ってしまう彼の思弁と行動である。だらだらぐずぐず続く熊太郎の思弁は考えすぎというよりも単純にその考えすら上手くまとまっていないため、もうどつぼにはまっていくばかりなのだ。
その熊太郎でも恋愛には純粋で(元々純粋な性格なのだろうけど、純粋というよりは気が小さく騙されやすい性格と言ったほうが正しいかもしれない)、その不器用さには思わず微笑んでしまうのであるが、恋が成就してもなお彼の不幸は続くのである。それがやり切れない。不幸を招くのは熊太郎自身であったとしてもやり切れない。

何故熊太郎が村民十人を惨殺するまでに至ったか、彼の生い立ちからその死までを町田さんの圧倒的な筆力と、強烈な河内弁がそれを綴る。
熊太郎の思弁や行動は何も珍しいことではない。現在のこの世にもそういう人間はいくらでもいる。自分の思いが上手く伝えられずにいつの間にか世間から突き放されてしまう。さてそれは誰が悪い?マイナス思考が卑屈になりその責任を他人に転嫁することで、自分を正当化し始める。自分を理解してくれない奴が悪いのだ、だから復讐だ絶対殺してやる…そういう人間は今の世にもいるはずなのだ。そして熊太郎よりももっともっと孤独な人間が。
「人はなぜ人を殺すのか」…突発的な殺人に見えてもそこに辿り着くまでの過程は実に奥深い。「なぜ?」を熊太郎の生い立ちから描くことによって見事に「告白」させてみせる。長い長い告白。最後まで熊太郎の不器用さが哀れでならない。やり切れない思いがじわじわ広がりゆく。

最後に熊太郎の人生において重要な鍵でもある葛木ドール(葛木ドールにモヘアって何て名だ(笑))。彼のことに関してはあやふやなまんまで終わってしまったのだ。あれは一体どう解釈したものか。どうも熊太郎の幻想だったのに違いないのだが…。
現実と幻想の狭間でゆらゆらさせられ、読み手は一体どうすればいいのやら途方に暮れるも書き手はそんなものお構いなしにどんどこ先へ先へ。そうこうしているうちに引っかかりはあるもののすっかり忘れて読み終えてから放りっぱなしにされていたことに気がつくのだ。書きたいから書く、ついてこれる者だけくればよろしい。そんな印象の作品なのだ、これは。それでも読み始めてしまったらもう棄権は出来ない。そうして読み終えてやり切れなさが襲う。熊太郎の能面のような顔がいつまでも焼きついて離れない。

読了日:2006年5月1日


いや〜やっと読み終えました。今頭の中が混沌としていて感想の文章もいつも以上にまとまっていません(汗)興奮気味なのか?高揚感がすごくて未だに「告白」の世界に行きっぱなし。なかなか戻ってこれぬのです。どうしたわけか次の本を読めぬのです。こりゃ完全にはまったのだな、ええ。
で、本屋大賞にノミネートされ、それまでの評価の高さから大賞を受賞されるのではないかと密かに思っていましたが、読み終えて思いました。これは大賞にはなれないな、と。どう考えても万人受けする作品ではないから。本屋大賞の一票を握っている方々の大半がこの作品を一番にあげるとはどうしても思えないです。好き嫌いがハッキリ分かれそうですよね、これは。私は町田節にすっかり魅了されてしまった一人なので大絶賛なのですが、手当たり次第に他人にオススメすることは出来ない作品なのですよねー。
初町田作品でしたが、他の作品が一体どんな世界観なのか非常に気になっています。とりあえずもう少し気持ちが落ち着かないと先に進めない(笑)
かりさ | 著者別ま行(町田康) | comments(14) | trackbacks(13) | 

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COMMENTS

Posted by rocket  at 2006/05/03 12:34 AM
渾身の感想文、読ませていただきました。
そうですか、戻って来れなくなりましたか。
これでリサさんも、こちら側の住人です(笑)
いらっしゃいませ。

僭越ながらTBさせていただいてます。
しかもふたっつ。
Posted by リサ  at 2006/05/03 1:03 AM
★rocketさんへ
こんばんは〜!
わぁぁコメントありがとうございます!!
もう少ししたらコメントとTBをしに伺おうと思っていたのです。
rocketさんが「戻れなくなる」とおっしゃっていた意味
よ〜くわかりました(笑)
本当に戻れません!何度も何度も読み返しちゃっています。
気持ちが上手くまとまらず、感想もアップするのを一日躊躇
していたほどです。もう恥だけどいいやっ、とアップしちゃいました。
すみません、変な感想で(>_<)

同じ住人としてこれからもよろしくです(笑)
rocketさんのレビュー改めて拝見しますね。
映像化のほうも読み終えるまで我慢していたので、わくわくします♪
Posted by ざれこ  at 2006/05/03 1:44 AM
こんばんは。読まれましたね。ようこそこちら側へ。(便乗)
私の取り乱した感想と比べたらよっぽどちゃんと書かれてますよ。理路整然と。河内近くに住む私がこれを読んでいた4日間、脳内はずっとこの河内弁。やばかったっすよ。ほんま(笑)
町田さん、とりあえず次は「夫婦茶碗」とか読まれてみたらどうかな、とか思います。まあ、落ち着かれてからでよいかと。
Posted by リサ  at 2006/05/03 4:24 PM
★ざれこさんへ
こんにちは!
コメントとTB嬉しいですーっ。ありがとうございます。
読みました〜。いや読み終えてから2日経っているのに
まだ戻って来れないようで(^-^;)
ずっと住人で居続けようかしらん。
ざれこさん河内近辺にお住まいですか!
それはもうガンガン来ますよね、この河内弁が。
東京出身の私でもうつってしまいそうになったのですから(笑)
ざれこさんの感想楽しみ〜。

町田さんのオススメ感謝です!「夫婦茶碗」読んでみますね。
Posted by chiekoa  at 2006/05/04 2:17 PM
もうその気持ち、手に取るようにわかります!ほんと、帰ってこられないですよね…。よんだのはだいぶまえですが、いまでもあの衝撃は忘れていません。本屋大賞!無理を承知でとってほしかった…。たくさんのひとに読んでほしかったなぁと、もうものすごくしみじみ思っています。地道にオススメ活動を展開しましょう…!
Posted by すの  at 2006/05/04 6:01 PM
この作品はぼくも確かにヤラレちゃいましたが、他の町田康の作品はどのように思われるのでしょうね?ぼくは、この前に「浄土」を読んで、ダメだと思ったのですが・・。そういえば他の作品にチャレンジしようと思って、すっかり忘れてました(苦笑)
Posted by リサ  at 2006/05/05 9:37 AM
★chiekoaさんへ
こんにちは〜。
幾日か経って少しずつ落ち着き始めました(笑)
でもこのざわざわとした違和感はずっと残り続けるような気がします。
本屋大賞をとっていたら沢山の人に関心を持ってもらえたでしょうね。
分厚いけど読んでみようかー、なんて。
うんうん、地道に布教活動しましょうね!
私の感想読んで読んでみよう、という方がいたら本当に嬉しい(*^-^*)
Posted by リサ  at 2006/05/05 9:40 AM
★すのさんへ
こんにちは!
すのさんもやられちゃったお一人ですね(*^-^*)
そっか、すのさんは「浄土」がダメだったのですか…。
私もいろいろと読んでみますね。
町田さんクセがかなりありそうなので、わくわく半分
ドキドキ半分ですー。
Posted by june  at 2006/05/05 9:59 AM
町田さんには苦手意識があったのですが、
これはすごかったですー。
今思い出しても圧倒されます!
でも、厚さといいちょっと人に薦めにくいんですよね・・。
Posted by リサ  at 2006/05/05 10:03 PM
★juneさんへ
コメント&TBありがとうございます!
町田さん初めて読んだのですが、圧倒されましたー。
他の作品がどんな感じなのか、是非挑戦してみようと
思っているところです。
そう、分厚さと万人受けしなさそうな内容で
オススメしにくいですね…。
Posted by やぎっちょ  at 2006/11/16 2:08 PM
リサさん
こんにちは〜。
読むのに3日かかってしまいました。読んでも読んでも進まない。。。
熊太郎の思念が行間なしでだーっと進むと、つい引き込まれながら(そして笑いながら)結構疲れました。。
実話だと全然気がつかなかったのですが、気がついてからは猛然と違う感覚と視点が湧いてきて、これはなかなか楽しかったです。
今日図書館に行ったらお休みだったので、明日にでも「河内十人斬り」事件の当時の新聞に目を通して見たいと思います♪
Posted by リサ  at 2006/11/17 12:10 AM
★やぎっちょさんへ
こんばんは♪
おおー読まれましたね!3日は早いかも〜。
確かにこれなかなか進まずに挫けそうになった覚えが…。
そして入り込んだら今度は戻って来れぬという。
そう、これ実話なんですよね。私は読む前に何かで読んでいたので
わりとその点は認識しながら読んでいました。
実話ということを知っているのといないのとでは
全く読み方も感じ方も違ってくるから不思議ですね。
やぎっちょさんすごい!実際の記事を確認しに行かれるなんて。
私ネットではあちこち調べましたが新聞までは
思いつきませんでした。
またそんなお話もお聞かせくださいませ。
Posted by daen0_0  at 2008/08/06 1:05 AM
はじめまして。TB送らせていただきました(なんか調子悪くて送れてないかもしれません)。

本当にすごい本ですよね。どこまでが幻覚なのかがはっきりわからないのは怖かったです。やっぱモヘアとかも幻覚なんだろうけど。。。
Posted by リサ  at 2008/08/06 11:32 PM
★daen0_0さんへ
はじめまして!コメントありがとうございます♪
嬉しいです(*^-^*)

これはすごいですよね!最初は分厚さに慄きましたが読むに連れてすっかりあちらの世界から戻れなくなっていました。
リアルと幻覚の境が曖昧なところがさらに凄みを増していましたよね。
モヘアのところはやっぱりそう思ってしまいますよね。

TBですが、せっかく送っていただいたのにエラーになってしまったようです。
また再度送ってくださると幸いです。

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