ひなたでゆるり

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『流れ星が消えないうちに』橋本紡

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流れ星が消えないうちに
橋本紡/新潮社
高校時代から付き合っていた恋人・加地君が自分の知らない女の子と旅先の事故で死んでから、1年半。奈緒子は、加地の親友だった巧と新しい恋をし、ようやく「日常」を取り戻しつつあった。ただひとつ、玄関でしか眠れなくなってしまったことを除いては――。
深い悲しみの後に訪れる静かな愛と赦しの物語。

劇的な何かが訪れるわけでない。淡々と綴られる残されたその後の二人の生活。亡くした恋人を、かけがえのない友人を、同じ傷を受けその痛みを分かち合うわけでなくただ自然に二人は寄り添う。もうあの人はいないのに、二度と帰ってこないのに、この手で触れる事さえ叶わないのに。その亡骸にすがって泣くことも出来なかっただろう。いつだって残された者はその縛りから逃れる事が出来ない。
恋人の死は心を壊しただろう。自覚はなくとも。けれどもただの死だったらまだ良かった。彼との思い出もやがては美しく変わっていくはずだった。いつかは時間が自分の壊れた心をまた再生し、シャンと背筋伸ばして一歩を踏み出せるはずだった。でも違った。恋人は誰か知らない女の子と一緒に死んだ。それが私をどす黒い闇に放り込む。ブラックホールのような深い深い闇。二度と戻ってこれないくらいの強烈な闇。

人の死を思う時、その異様な冷たさがまざまざとよみがえる。指先がしっかりその温度を覚えている。それはどんなに年月をかけようとも決して忘れる事のない温度である。ついこの間笑い合ったのに、その体には確実に血が流れ温かだったはずなのに、死というものは残酷だ。二度と開かないまぶたをじっと見つめ、その頬に触れた時、一瞬その手を離した。想像だにしないその温度。ああ、この人死んじゃったんだ…そう思ったら立ち上がれなくなった。悲しいとかの感情はその時襲うものではない。だた呆然とするだけだ。やがて自分の心と向き合った時その現実が押し寄せてくるのだ。
これは身内の死だったため、私は最後のお別れも骨を拾うことも出来たけれど、奈緒子はどうだったんだろう。加地君と最後の別れは出来たのだろうか。その死に顔をちゃんと見ることは出来たのだろうか。そんなことが頭をかすめた。

あまりにも淡々と描かれる奈緒子と巧くんの生活。彼女と彼の加地君への思いが溢れた語りが交互に繰り返される。溢れる…いやその亡き人に縛られて身動きが取れていないのだ。その人の死から1年半。これは長いのだろうか、短いのだろうか。痛みを癒すのに充分な時間なのか。恋人を亡くした事がない私には想像するしかないことである。

玄関で眠る奈緒子。眠りを妨げる心を支配し続ける闇。その闇を玄関という空間が取り払ってくれたのだろう。すっぽりと身を包んでくれるあの空間が奈緒子には心地良い場所だったんだろう。もしかしたらこの胸の奥深い深いところであの人の帰りを待っていたのかもしれない。彼との思い出があまりに溢れて流れくる自分の部屋だって辛い。その原因の他にもっと違う別の何かがきっと玄関と言う場所を選んだのかもしれない。うっすらと夜明けの光が差し込むまで眠れなかったり、まどろんだり、その光を受けてから眠りについたこともあっただろう。人間は自覚しないところで再生の時をきっと待っている。日々の繰り返しの中で人は悲しみや辛さを抱えながらも生きていく力を温存し、その時をじっと待つのだろう。

満天の星、無数の流れ星。その流れ星に何を願っただろう。遠い遠い届かない場所にいる彼を想い、今大切な彼を想う。決して断ち切れないその手と手はずっとずっと繋がれていくだろうか。そうであって欲しい。本を閉じ、窓から星空を眺める。目には見えないけれど幻の流れ星に二人のこれからをそっと願った。

読了日:2006年9月3日


実は橋本紡さんをずっと女性だと思っていました。繊細な描写、優しい眼差しがそう勝手に思わせたのかもしれません。先日ダ・ヴィンチに載っている橋本さんを見ました。…男性でした。驚いた。そして今まで読んだ橋本さんの作品を思い返してみました。そうしたら不思議な事にその作品がさらにさらに優しいものに感じられました。それは男性が描く意外性からなるのかもしれません。上手く言えないのですけど。
さて、橋本作品はこれが3作目。ちょっと毛布おばけを思い起こすような玄関で眠る女の子。その恋人を亡くした辛さを延々と描くのではなく、悲しみの中でも変わらずに朝は訪れるし、お腹はすくし、生活だってしていかなくてはならない。そんな日々を描いていく。とても素晴らしかった。お涙頂戴で書かれていないことに好感を持ちました。
特に感想には書かなかった、奈緒子と父とのやり取りがとてもいい。奈緒子の漫画と父の時代小説を貸し合い、同じ空間でそれぞれの本をそれぞれ読みふける。その場面がとても好きで何だかいいなぁと思ってしまった。加地君の本好きな場面とか公園の葉っぱを栞にしちゃうとことか、とてもとても好き。そんなハッとさせられる何気ないシーンが響くのです。とても素敵な作品でした。
かりさ | 著者別は行(橋本紡) | comments(14) | trackbacks(8) | 

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COMMENTS

Posted by May  at 2006/09/05 10:38 AM
こんにちは。いつも楽しく読ませていただいています。  (初めてコメントさせていただきますね。)
この作品で初めて橋本紡さんの作品に出会ったのですが、私も、てっきり女性の作家さんだと思いこんでました。(笑) こんな繊細な感性を持ってるって、素敵ですよね。    登場人物やその関係がどれも皆優しくてじわっと温かい気持ちにさせられます。
プラネタリウムでの告白のシーンもロマンティックで、こんな《告白の仕方》もあるんだなーって。
7月に刊行された「ひかりをすくう」、これから読もうと思っているのですが、楽しみです!
Posted by リサ  at 2006/09/05 2:10 PM
★Mayさんへ
はじめまして!こんにちは。
コメントありがとうございます。嬉しいです♪
初橋本作品だったのですね。そう、女性と間違えてしまいますよね。
硝子細工のように壊れやすく繊細で…。
私、他2作読んでいて著者近影も見ていたのですが、
それでも女性と勘違いしていました(その写真長髪の方が目深に
帽子をかぶっていたのです)
本当に素敵な感性をお持ちで大好きです。

告白のシーンは良かったですね〜。年甲斐もなくドキドキしてしまいました。
フォークダンスのシーンも…。
新刊の『光をすくう』、私も買ってあります。
近々読む予定です。また楽しみです。

是非またいらしてくださいね。お待ちしています。
Posted by tamayuraxx  at 2006/09/05 11:30 PM
TBありがとうございました ^^

あの告白のシーンはわたしもドキドキしました。
部分的にちょっと少女漫画ぽい雰囲気もあるかな?と思いました。
読後に検索していてライトノベルズ系出身の作家さんだと
知って納得した部分もあります ^^
Posted by chiekoa  at 2006/09/06 11:51 AM
私は他の著作は未読なのですが…ここを読んでいたら読みたくなってきました。図書館で探してみます!ついでに、あの本を読んだときの胸の痛みも蘇ってきました。こういう感想を書かれるリサさんが、とってもステキだなと思います。
Posted by 七生子  at 2006/09/06 1:26 PM
リサさん、こんにちは。
すっかりご無沙汰&読み逃げばかりしていてゴメンなさい。

とても繊細かつ温かい物語で、心に染みる作品でしたね。
リサさんの感想を読んで、物語を読んでいる最中に感じた喪失の痛みを思い出しちゃいました。
お父さんとのやりとりのシーン、私も大好きです。
少女漫画好きにはたまりませんね(笑)。
やはり橋本さんご自身の嗜好が反映されたんでしょうか。

新刊、もう入手されているんですね。
装幀に惹かれたものの…図書館さまにお願いすることになりそうです。
リサさんの感想、楽しみに待ってます!
Posted by リサ  at 2006/09/06 11:40 PM
★tamayuraxxさんへ
こんばんは!コメントとTBありがとうございます♪
あ、確かに少女漫画のような雰囲気はありましたね。
出てくる漫画タイトルがアレですし…(*^-^*)
繊細な文章は橋本さんらしいなぁと思ってました。
Posted by リサ  at 2006/09/06 11:42 PM
★chiekoaさんへ
こんばんは!
コメントありがとうございます〜♪
橋本さん七曜日シリーズしか読んでいませんが
これが想像以上に良かったんですよ。
ぜひぜひ探してみてください。
そして、ス、ステキだなんてーっ。嬉しい♪
Posted by リサ  at 2006/09/06 11:46 PM
★七生子さんへ
こんばんは!
わぁ!コメントありがとうございます♪嬉しいです〜。
こちらこそですよ!

心に沁みますよねぇ。橋本さんらしいな、と思いました。
橋本さんの作品の土台は少女漫画なのかな、とふと思いました。
確かに嗜好が反映されているのかもしれませんね。

新刊、思わず買ってしまったんですよ。
装丁に惹かれて買った人です(笑)
近いうち読んでみようと思っていますー。
Posted by トラキチ  at 2006/09/08 12:58 AM
リサさん、こんばんは♪
素晴らしいレビューですね。
まるで流れ星のようにうっとりと見とれてしまいます。
男性読者からしたら巧の寛大さや苦悩が十分に伝わってきました。

少し市川拓司さんの作風に似ているかなと思ったりしていますがどうでしょうか?
作風と言うか文章の美しさからそう感じるのでしょうかね(笑)

あとご投票いただいております第5回新刊グランプリの投票締切まで1週間となりました。
多分リサさんはお読みになられた作品すべてご投票
いただけていると思います。
また加点投票とクイズも実施しますのでよろしくお願いします。
Posted by リサ  at 2006/09/08 11:27 PM
★トラキチさんへ
こんばんは!コメント嬉しいです♪
わぁ〜嬉しいお言葉に照れております…。
男性読者からみたら巧はどう映るのだろう?と
思っていましたのでトラキチさんの「寛大」「苦悩」の二文字で
何となく理解できた気がします。

私…市川拓司さん未読なんです。市川さんもこんな作風なのですね。
これは是非読んでみなくては!
トラキチさんのところで参考にさせてもらいますね。

第5回新刊グランプリのこともお知らせありがとうございます。
はい、既読作品全て投票しました〜。
結果が楽しみです。
Posted by ゆか  at 2006/10/07 2:19 PM
リサさん、こんにちは。
「本を読む人々。」からとんできました。
この記事は少し前のみたいですが、
私もこの本を読んでリサさんとおなじように
とてもすてきな作品だと感じたので、
あえてこちらにコメントしました。^^

それにしても・・・
リサさんのレビューすばらしいですね♪
いいな〜、こんなふうに書けて。。
私もこの本を読んだとき、レビューを書いたのですが、
は、恥ずかしい〜〜・・><
Posted by リサ  at 2006/10/08 1:56 AM
★ゆかさんへ
ゆかさん、こんばんは!
わぁコメントありがとうございます。嬉しいです♪
私も大好きな『流れ星が消えないうちに』にコメントいただけて感激ですー。
わわわ、そんなすばらしいだなんて言っていただけて
大変照れております…。ありがとうございます。
ゆかさんのレビュー拝見に伺いますね。
またぜひぜひいらして下さいませ♪
Posted by june  at 2007/06/03 9:59 PM
リサさんこんばんわ。
私も玄関にいるというのは、待っているというイメージだったんです。
入ってくるところと出ていくところというのとイメージが違ったんで、
何で玄関なんだろう・・って思ってたんですけど、
リサさんが、同じ様に待つという言葉を使っているのに驚いて、
そして待っているのは、「あの人」だったり「再生の時」だったりするのかもしれないというのを読んで、
気になっていたことが、するりと胸に落ちた気がしました。

とりあえず、橋本さんの「月光スイッチ」を予約中です。
また追いかけたい作家さんが増えてしまいました♪
Posted by リサ  at 2007/06/04 9:36 AM
★juneさんへ
こんにちは!
そうなんです。私もjuneさん同じイメージを持っている!と嬉しかったです。
玄関であの人の帰りを待っているような、その帰らぬ人を待つというのは
相当の辛さなのだけど、でもそうせざるを得ないような無意識の行動なのかな、と。
そうして日々を過ごしていくごとに再生していくのかな、と何となくそう
勝手に想像してしまいました。

わぁ♪次は『月光スイッチ』なのですね。
こちらも橋本さんらしい繊細な文章が紡がれています。
juneさんの感想今から楽しみです♪
ふふふ、追いかけたい作家さんが増えるのって嬉しいものですね。

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