ひなたでゆるり

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『花粉の部屋』ゾエ・イェニー

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花粉の部屋
ゾエ・イェニー/新潮社
幼い頃、父と母は離婚した。母は新しい恋人と海外へ。父もやがて再婚し…。娘をかえりみない子供のような親。抵抗のすべを知らない子供。世界を静かに覆しつつある新しい家族像を、自らの体験をもとに、柔らかな声で描いた、21世紀文学の幕開けを予感させる長篇。ドイツ語圏の文学賞を独占した23歳の新人の、繊細、果敢な話題作。

切々と綴られるヨーの語り、思い、抗い、諦め、だが止む事はない儚き夢…。哀しみに満ち溢れたこの流れのままにヨーの語りは澱みなくすべらかに進行してゆく。時に回顧を交えながら。父も母もするりとヨーの手を振りほどき去ってしまう。その姿に追いすがっても彼らはヨーの姿をその瞳に映さない。それのどれだけ哀しいことか。深き哀しみの淵に佇むしかないヨーの健気な姿は静かに、しかし強烈に胸を打つ。

ああ、この胸に宿る感情をどう表現したものか。読み終えて幾度も幾度も適切な言葉を探せど、探し物は一向に見つからないのだ。どうすれば彼女の感情に与することが出来るのだろう。だが一方でその資格はお前にはないのだ、と頭の片隅でもう一人の自分が罵倒する。ヨーに仕向けられた事実はあまりにも酷であり、悲劇でもある。その哀しみに寄り添う資格が自分にはないこともちゃんと自覚している。ヨーの声なき悲痛の叫びに鬱々とし、ヨーの感情なき語りに胸を締め付けられる。その狭間の中で私はどっちつかずで立ち止まったままである。

静謐な文体、描写の美しさ、言葉紡ぎにハッとさせられる。時間に押し流されるかのように急ぎ足で読むのは非常に勿体無い気がして、この作品は丁寧に時間をかけて読んだ。そこに紡がれる言葉ひとつひとつをまるで硝子細工の脆いものを扱うかのように。そこから広がる新たな自身の感情を陽にかざして確かめるように丁寧に丁寧に。
そしてヨーのような哀しみに突き落とさぬよう、私は子らの手をしっかり握っていこう。そう固く誓ったのであった。

読了日:2006年10月3日
かりさ | 新潮クレスト・ブックス | comments(0) | trackbacks(0) | 

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