フィッシュストーリー 伊坂幸太郎/新潮社
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あの作品に登場した脇役達の日常は? 人気の高い「あの人」が、今度は主役に! 小気味よい会話と伏線の妙が冴える伊坂ワールドの饗宴。
「動物園のエンジン」「サクリファイス」「フィッシュストーリー」「ポテチ」の4編収録。
伊坂さんの文章はそれがどんなものであってもするすると糸を解くように何らつっかえもなく読める。ひたすら心地良い。しみじみ伊坂作品が好きなんだなぁと実感する。毎度毎度。もちろん本作品も然り。以下、各作品の感想。
「動物園のエンジン」
このタイトルが秀逸。んん?と首を傾げるタイトルでも読めばしっくりくる。文体は初期の伊坂作品を彷彿とさせ楽しめる。河原崎の無意味な推理ごっこも実は好きだったりする(笑)
「サクリファイス」
一番好きな作品である。いつもの伊坂作品とは毛色の違う民俗学的な雰囲気や世界。黒澤が人探しのために訪れた村には古くから伝わる「こもり様」という風習があった。黒澤の落ち着いた性格が妙にこの作品の世界に合っていてこれは大成功なんではないかとほくそ笑んでしまう。
ここに登場する唄子ばあちゃんが最高!彼女の方言は宮城弁なのだろうか。唄子さんが黒澤を気に入る様子など微笑ましく、もっと唄子さんにしゃべって欲しかったなぁ、などとつい切望してしまった。私はある箇所でうるうる目を潤ませてしまったのだ。そんな話しではないはずなのに…。ラストのオチににやり。
「フィッシュストーリー」
すごく素敵なお話し。時空を超えた物語はあるバンドのレコードに収録された曲から発生する。不思議な話しだが、私たち人間もこういう運命だったり縁だったりで繋がれていくのだよなぁ、としみじみしてしまった。
バンドメンバーが込めた思い。それがあるきっかけを作りどんどん大きな繋がりへと広がってゆく。それはまるで伊坂さんの作品間にもあるような繋がりを思わせる。気がつかないうちにこんな時空を超えた繋がりが自分にも存在しているのかもしれない。そう思うととてつもなく壮大で宇宙な感じ。
「ポテチ」
本作品唯一の書き下ろし作品。これは良い。とても良い。穏やかな優しい性格の今村の胸に広がるもの、その実体は途中から何となく分かってくるが最後まで読むとこれがくぅ〜っとくる。今村の母親が実に気持ちの良い人。これだけ大らかで度量のある人ならば息子の思いなんて些末なことだよ、と笑い飛ばしてその豪快さでやわらかく包んでくれるのかもしれない。大西も似たような性格で同じく今村を温かく包んでいくんだろう。だから私たちは「彼は大丈夫」と確信して読み終えることが出来るのだ。
読了日:2007年2月13日
伊坂さんの新刊!てことで楽しみにしていました。初めの「動物園のエンジン」から「ああ、伊坂さんの文章ってやっぱり好き♪」なんて心地良く浸ってました。初期作品に近い文体だったように感じます。この頃の伊坂さんも好きなのです。デビュー作『オーデュボンの祈り』を愛してますから〜。
そして伊坂作品の醍醐味は作品間リンク。これまでの著作に登場した人物がひょっこり現れて「おっ!」と楽しませてくれます。ん〜でもそこに気がついても(何となく違和感を感じるのです)「誰だっけ?どこに出てたっけ?」となるともう気が散って仕方ありません。そうなると何が何でも突き詰めたくて著作品をドカッと横に積んでせっせと調べるのです。結構見つけたつもりでいますが、もしかしたら気がつかずにそのまま読み進んでしまった箇所もあるかもしれません。それは悔しいな。
初読の方には作品間リンクがあるだなんて言うと躊躇してしまうかもしれませんが、どこから読んでも何ら問題はありません。むしろここからでも他の作品からでもその繋がりを楽しめるのです。あの時読んだあれはこの人だったか!という発見も面白いものです。
伊坂さんの作品には文中にところどころ伏線が張られていて、読んでいる時には気がつかなくても読み終えて「あ!」とポンッと膝を打つ。その心憎い演出にさらに伊坂作品の虜になってしまうのです。本作では特に「ポテチ」でしょうか。さり気なく出てくる小道具が後々繋がっていくというのがああ、上手いなぁと惚れ惚れするわけなのです。
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