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『大きな熊が来る前に、おやすみ。』島本理生

大きな熊が来る前に、おやすみ。
大きな熊が来る前に、おやすみ。
島本理生/新潮社
徹平と暮らし始めて、もうすぐ半年になる。だけど手放しで幸せ、という気分ではあまりなくて、転覆するかも知れない船に乗って、岸から離れようとしている、そんな気持ちがまとわりついていた――。新しい恋を始めた3人の女性を主人公に、人を好きになること、誰かと暮らすことの、危うさと幸福感を、みずみずしく描き上げる感動の小説集。
異性を好きになる。一緒にいたいと思う。その人のことをもっと知りたいと思う。その恋が互いに初めての恋でなければどうしたって相手の過去の時間を共有した別の誰かに嫉妬するのと同時に、どんな風にその人と過ごし、その人をどれだけ愛していたか知りたくなる。知りたくないのに知りたくなる。
そうして二人の間を隙間なく埋め、時間を多く共有するようになって。その先には穏やかな幸せの形が育っていくはずだったのに。

愛する人から受ける仕打ち。それは痛みを伴って心を深く抉る。見えないけれど血の滲み出る痛みがしんしんと広がってそれはやがて乾いてかさぶたになってしまっても、しつこくこびりついて絶対に剥がれない。そうして傷ついた心を抱えて人はまた人を好きになってしまうんだろうか。無防備に愛することの出来ない何かしらの闇を抱えた女性3人のそれぞれの新しい恋。
表題作「大きな熊が来る前に、おやすみ。」「クロコダイルの午睡」「猫と君のとなり」の3編。島本理生さん初の短編集。酒井駒子さんの表紙イラストが目を惹く。

ここに彩られる闇の色はかなりの濃度を持って少なからず読者を打ちのめす。島本さんの綴る瑞々しい文章の中にひっそりとポトンと落とされている黒い染み。見えないけれど確実に存在する闇。それは与えられてしまったら絶対落とせないものであり、時々ハッとするほど色濃く滲み出る。
ちょっとダークに彩られた物語がとても印象深く残る短編集。一見絵本のようなほのぼのさを持ったタイトル「大きな熊が来る前に、おやすみ。」に秘められたもの。「クロコダイルの午睡」ではそのダークさがさらに色濃くなり、「猫と君のとなり」では不安感が生まれるもほんのり淡く色づくラストにホッとしたり。

特に印象深かったのが「クロコダイルの午睡」。主人公のちょっと屈折した心がやがてとんでもない結末を自ら招いてしまう。苦手で仕方ない男の子の放つ言葉に戸惑いを感じながらも気がつかないところで惹かれていってしまう。それに抗おうにも好きという感情は嘘をつかない。でも彼には彼女がいて。その彼のために地味な自分を変えようとする主人公の行動がものすごく痛々しくて、ついと目を逸らしてしまいたくなる。けれども理解できてしまうから読んでいて息苦しい。好きなんだけど彼の無頓着な言葉に傷つけられて。その揺れる過程に目を離せない。淡々と冷たく流れる空気がさらに痛々しさを増してゆく。彼女の行動、その代価はあまりにも大きい。

恋は難しい。実を結んでも難しい。恋の濃度だったり形だったりそれが保たれることは決してない。相手の過去に捕らわれたり、現実に悩んだり、過去の見えない不安にも苛まれる。相手の自分への愛の深さを推し量ってみてその結果に沈んでしまったり。恋はだから難しい。難しいけれどそれでもやっぱり人は恋せずにいられないのだ。それがどんな道すじを辿ろうとも。

読了日:2007年5月7日


島本作品はまだ2作しか読んでいなくて是非また読みたいと思いながらなかなか叶わずにいて。今回は酒井駒子さんのイラストに惹かれて手にとってみました。恋愛ものはあまり得意ではないのですが、ここに流れるダークな雰囲気はなかなか好きでした。
でも。今作は短編3編ともDVが関わっています。特に表題作「大きな熊が来る前に、おやすみ。」では主人公の行動に理解出来ず「なんで!?」とつい問い詰めてしまいたくなってしまうほど。何故戻る?その恐怖感とずっと隣り合わせでいられるの?と本当に理解しがたい。理解しがたいのだけど、恋って愛ってそういうもんなんだなぁ、とも思います。だからやっかい。とてもやっかいです。
ダークなお話しばかりではありません。ラストは同じテーマを扱いながらもほんわかさを感じられてホッとしました。
かりさ | 著者別さ行(島本理生) | comments(8) | trackbacks(5) | 

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COMMENTS

Posted by 藍色  at 2007/05/17 3:41 PM
リサさん、こんにちは。
3人の女性たちが痛々しかったですね。
地味で生真面目なのが、なんだか自分に似ているようで共感できました。
レビューで、黒い染み・色濃くなり・ほんのり淡く色づく、のたとえがすごく心に沁みました。
表題作、何故戻る?って思ったのは私だけじゃなくて安心しました。
Posted by なな  at 2007/05/17 9:42 PM
リサさん、こんばんは。
なぜ戻る??って私も思いましたが、恋って愛ってそういうものなんですよね。
本人にだってわからないまま、飛び込んじゃってるんですよね。
やっかいです。がんばります(?)
Posted by june  at 2007/05/17 10:48 PM
リサさん、こんばんわ。
「猫と君のとなり」はほっとしたし、一番好きですが、「クロコダイルの午睡」がすごく印象に残ってます。苦手が好きに好きが・・・という気持ちの変化に私も目が離せませんでした。でも痛々しすぎました。
はぁ・・恋する気持ちって、やっかいなものですね。島本さん若いのに、それをこんなふうに描いてしまうなんて・・。すごいです。
Posted by リサ  at 2007/05/18 1:43 PM
★藍色さんへ
こんにちは!コメントありがとうございます♪
まさかこんなにダークなお話しとは思っていませんでした。
読んでいくうちに主人公たちの痛々しさが増していって…。
「クロコダイルの午睡」の女の子の心理は私も感じたことがあったので
ちょっと苦々しく思いながら読んでいました。こういう心理を描かせたら
島本さん素晴らしいです。
本当に「何で戻るの〜!」って言いたくなっちゃいました。
恋しているって見えないものがあって怖いですね。
Posted by リサ  at 2007/05/18 1:50 PM
★ななさんへ
こんにちは!
本当に…恋愛って盲目なところがあってどんな仕打ちを受けてもまだ大丈夫、
って思ってしまいがちなんですよね。本当にやっかいです。
だからこそ乗り越えられるっていうのもあるんですが…。
と、私も人のこと言えないくらいいっぱいやらかしています(笑)
Posted by リサ  at 2007/05/18 1:56 PM
★juneさんへ
こんにちは!
「クロコダイルの午睡」はなかなかすごかったですね。実は一番好きです。
あの結末も全て。ああいう心理って少なからず女の子は経験しているものですよね。
恋って素敵だけど紙一重で怖くもあります。魔物です。
島本さんこういうものも描くんだなぁ、ととても新鮮に読みました。
ますますこれからの作品が楽しみです♪
Posted by 苗坊  at 2007/05/19 3:24 AM
こんばんわ^^
私が1番好きな作品は最後の「猫と君のとなり」でした。
2作目の主人公の気持ち、わからんでもないんですよね。
女性として何だか否定されているようで、実際に言われたら傷ついちゃいます。
悪気がないって言うのが、尚更悲しいなぁ・・・と^^;
Posted by リサ  at 2007/05/19 10:15 PM
★苗坊さんへ
こんばんは!
最後の話はホッとしましたね。優しい彼で良かったなぁ、としみじみ思いました。
「クロコダイルの午睡」はもうなんというか、主人公の女の子の気持ち、
すごくよく理解できてだからこそ一番印象深いものになりました。
言葉ひとつで難しいものです。ちょっと放ったものでも相手は深く傷つく。
はぁぁ。深いですね。島本さんの文章、素晴らしいです。本当に。

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粋な提案  at 2007/05/17 3:42 PM
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本のある生活  at 2007/05/17 10:48 PM
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大きな熊が来る前に、おやすみ。 酒井駒子さんの表紙に、なんだか童話のようなタイトル、そして島本理生さんです!これは期待が高まります。で、読み始めてみたら空気が不穏なんです。だから表紙が黒?3つの短編が入ってるのですが、2つめまではかなりダークです。
苗坊の読書日記  at 2007/05/19 3:02 AM
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