遠まわりする雛 米澤穂信/角川書店
神山高校で噂される怪談話、放課後の教室に流れてきた奇妙な校内放送、魔耶花が里志のために作ったチョコの消失事件――〈省エネ少年〉折木奉太郎たち古典部のメンバーが遭遇する数々の謎。入部直後から春休みまで、古典部を過ぎゆく一年間を描いた短編集。
『氷菓』『
愚者のエンドロール』『
クドリャフカの順番』に続く古典部シリーズ4作目。
「やるべきことなら手短に」「大罪を犯す」「正体見たり」「心あたりのある者は」「あきましておめでとう」「手作りチョコレート事件」「遠まわりする雛」7編の連作短編集。
おお、待っておりましたよ。古典部シリーズ。新作は連作短編集。高校入学から翌年の春休みまでの1年間が時系列順に収録。時系列順は大変ありがたい。
時系列に流れていくことによって、この1年間で個々の心がどう変化していったか、その関係性がどう変化していったか、手に取るように分かってきます。1年という時が彼らにもたらしたもの、それがラストで鮮やかに描かれます。何というか、衝撃です。
「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に。」そんな省エネ主義者の折木奉太郎が、同じ部員である千反田えるの「気になります」発言によって不本意ながらも探偵役として活躍する(あくまでも本人は消極的に)古典部シリーズの短編はこれまた日常の謎を(主に高校で発端する謎を)堪能させてくれています。
1編1編はわりあいと地味なんですが、これが全体を通してみますと実に上手くまとまっています。読み進むうちに「あのあれがここにこう出てくるか!」てな具合にいちいち合点がいって気持ちの良いこと。米澤さんの上手さが引き立っていてさすが、と感動すらしてしまいます。
そして前3作ではここまでは見られなかったであろう登場人物面々の心情が明かされて実に興味深い。特に「手作りチョコレート事件」の福部里志の伊原摩耶花に対するものとかこの辺はチョコレートにかけてなかなかビターに、いやもっと苦いブラック並みに描かれていて読後の苦々しいったら。
そうして表題作「遠まわりする雛」のラストでは衝撃の展開でありますよ。まさか古典部シリーズでこんな雰囲気になるとは思わなかったので、しばしポカンとしてしまいました。
ややや、これはこの先どんな展開になっていくのか楽しみになってきましたぞ。
中でも「心あたりのある者は」「手作りチョコレート事件」「遠まわりする雛」がお気に入り。
「心あたりのある者は」は実にシンプルながらその推理の妄想っぷりが天晴れ。どんどん大仰になっていく推理ぶりにこっちは嘘か誠か果たしてその真相は!?ともう興味津々なのですけど、後日明かされる真実にこれはもうお見事!と気持ち良い結末。上手い。
「手作りチョコレート事件」は里志の気持ちがドーンと重たく突きつけられてそのブラックさにしばし思考を巡らせる。ふむ、そういうことだったか。ところでメッセージ「ふるえる哀をこめて」に笑ってしまいました。お姉さん最高!
もうひとつ好きなのが天文部。何やら楽しげでしたけど(笑)。あの、もうちょっと彼らのマニアックそうな会話を聞きたいんですけどー。
「遠まわりする雛」はタイトルだけ読んだら「はて?何のことか?」とこっからもう謎なんですが、雛って雛祭りの雛でしたか。しかも「生き雛祭り」。
この生き雛祭りって飛騨高山の一宮水無神社で実際に行われているのですね。米澤さんは岐阜出身でいらっしゃるからこの祭りも良くご存知なのでしょう(でしょう、って勝手に決め付けてますけど)。祭りの準備の様子などとてもリアルでした。あ、てことは舞台の神山市は岐阜高山市になるのでしょうか。
ここであのラストを描いたということはこれからはただの青春ミステリーでなくなるわけで。ここに愛や恋が交ざるということは物語はより色濃く光と影を作るのです。
これはますます興味深くなりました。
古典部の面々が今後どうなっていくのか…「気になります」。
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