いやしい鳥 藤野可織/文藝春秋
鳥に変身した男をめぐる惨劇を描いた文學界新人賞受賞作「いやしい鳥」、絶滅したはずの恐竜に母親を飲み込まれた女性の内面へ踏み込んだ「溶けない」、愛とヴァイオレンスが奇妙に同居する「胡蝶蘭」の三作を収録。
「いやしい鳥」「溶けない」「胡蝶蘭」3篇の短編集。
異色の幻想文学との帯の言葉を頭の片隅に置いて読み始めてみましたらば、これは確かに異色な幻想ものであるけれど、たぶん私が最初に想像したものとはだいぶ異なってそれは予想というか想像以上の凄まじさでありました。いや〜この不快感さはなかなかのもの。これを声高らかに好きだ!と書いてしまっていいものかどうかなのだけど、これは恐怖というよりも愛を感じてしまう。だから好き。
表題作の「いやしい鳥」はごくごく普通に物語が始まってそこからまさかの世界が待ちうけるとは思わないものだからあれよあれよと引きずり込まれたらもう逃れられない壮絶な展開がそこにあるわけです。どこからが現実でどこからが非現実の世界なのかその境界線がぼんやり曖昧になって自分がどこに位置しているのか彷徨ってしまう不安感。そしてこのまさかの展開の不快感。不快感を感じつつ皮肉な笑いも混ざっていてちょっぴりホッと出来るような。いやいやホッと出来るとは到底言えないけれど、ちょっぴり、ね。
「溶けない」は「いやしい鳥」とはまた違う感情に襲われる。幼い自分と母親との過去の記憶。母は確かにあの時呑まれたのだ。そしてあの時同様それはまたやってくる。
果たして今いる場所はどこなのか、自分もまた母と同じく呑まれたのか。真剣に語る彼女の側でしか語られないものだから彼女が現実なのかはたまた非現実の中にいるのか、これは一体どうしたことなのかぐるぐるしてしまってぐるぐるはさらに回転を増して放られる。
「胡蝶蘭」はとても短い物語の中で作者の世界がより濃く凝縮されている。明らかに異質な胡蝶蘭が不気味なのだけど、さほど恐怖さは感じない。けれども明らかにここには狂気が漂っていてただならぬ空気がちくちくと突き刺す。
飛びぬけていないけれどしっとりとした狂気。ひたひたと静かに音立てる狂気。
いずれも彼らは至極真っ当なのだ。真面目に語られるものだから漂う不気味さはより一層濃さを増す。
この猛毒さはクセになりそう。早くも次作が待ち遠しいです。
読了日:2009年1月26日
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