花の下にて春死なむ 北森 鴻/講談社文庫
年老いた俳人・片岡草魚がひっそりと死んだ。草魚が残した句帳には死ぬ直前まで書き残した俳句と、日記が。彼の知られざる人生をひも解こうと飯島七緒は旅に出る。
「花の下にて春死なむ」「家族写真」「終の棲み家」「殺人者の赤い手」
「七皿は多すぎる」「魚の交わり」の6編収録。連作短編集。
第52回日本推理作家協会および連作短編集部門受賞作
初北森作品にこれを選びました。初めて読む作家さんはやはり少し躊躇します。自分の感性に合うかどうか不安なのかもしれません。そんな少しの不安を(でもそれが楽しみに摩り替わる瞬間がたまらなく良い) 抱きながら読み始めました。読了後しみじみと余韻に浸りながら本を閉じました。最初の不安は杞憂でした。
何といっても料理の描写が素晴らしく、それだけでも美味しい作品。そして普段の生活に潜む何気ないミステリィが淡々と語られていく。その背景にあるもの、根底に潜むもの、闇の部分が明るみになる時、何とも切ない気持ちが滲みます。日常ミステリィという言葉は今や珍しくはなくなっていますけど、私が認識する日常ミステリィとはまた違った印象でした。
中でも最初の「花の下にて春死なむ」と最後の「魚の交わり」は好き。男と女であるがゆえの艶かしい部分というのにくすぐられます。この一つ一つの短編を点で繋ぐのが、三軒茶屋にあるビアバー「香菜里屋」。そこのマスター工藤が作る料理や、ビールへのこだわりなど非常に楽しめます。切なかったり、哀しかったりの負の感情を押し隠しながら生きてゆく人間模様。折りしもそんな感情から抜け出せない時に読みました。そしてそこから脱する道が開けたのも確かです。いい出会いをしました。
読了日:2002年4月13日
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