魔王の足跡 ノーマン・ベロウ 武藤崇恵・訳/国書刊行会
The Footprints of Satan 1950
ある雪の朝、英国の田舎町ウィンチャムに謎の足跡が出現した。まっさらな新雪に覆われた道の中央に突如現れた蹄の足跡を辿る一行は、野原の真ん中に立つ一本のオークの木へ行き着き、大枝からぶら下がった男の死体を発見する。蹄の足跡はそこでぷっつりと途切れ、足跡の主はそこから虚空へ飛び立ったとしか思えない状況だった。しかも、問題の木には、昔魔女が縛り首になったという伝説があるという。怪奇趣味満点の不可能犯罪派ノーマン・ベロウ、本邦初紹介。
国書刊行会の「世界探偵小説全集」が以前から気になっていたんですが、ようやく読み始めることが出来そう。最初に選んだのは『魔王の足跡』。
ノーマン・ベロウという作家自体知らなかったのですが、読んでみてすごく自分好みであることが判明!
これは是非とも他の作品も読みたいわぁ、と思うものの、残念ながら20作品あるうち邦訳されているのはこの1冊のみなのです。どうやらシリーズらしいのです。
本書の中にも「主教の剣」(The Bishop's Sword 1948)をめぐる事件がちらっと紹介されています。どんな事件だったのか、どう解決したのかすごく気になりますよ。
どうやら海外でもノーマン・ベロウが再評価されているようなので、この流れで日本でも邦訳されてどんどん刊行して欲しいなぁ、と思うのは他のミステリファンもきっと切望しているはずと思います。
さて、本書の事件。
怪奇趣味の不可能犯罪派であるノーマン・ベロウならではの事件の始まり。
「1855年2月8日、悪魔が英国に降り立った。デヴォン州各地で不可思議な蹄の足跡が多数目撃されたのである。」で始まるまえがきからぐいぐい引き込まれていきます。
それから一世紀後のある雪の朝、英国の田舎町ウィンチャムに悪魔が再び舞い降りたのか?!という類似した不可思議な現象が。
雪の上の悪魔の足跡を追うとその先の野原に立つ大木の枝にぶら下がる男の死体。
その木には昔魔女が縛り首になったという伝説もある、曰くつきの大木。
人間でも、動物でもない、蹄の形をした足跡の正体は一体何なのか、何故男は死なねばならなかったのか?自殺?他殺?他殺ならばそこまで誰がどうやって運んだ?
もう足跡自体が怪奇現象なのですから、まずはその正体について延々と推理されていきます。悪魔の仕業?というテーマがこれでもかと延々推理され、その盛り上げようといったら!どこまでも続いていくのでさぞうんざり?なのかと思いきやこれがまた面白く、楽しいったら!一体どうやってこれを終結させていくのか疑問に思いつつ読み進むと、第二の事件が起こって。
「魔王の足跡」という不可能犯罪をどう成立させるのだろうかと途中疑問だらけでしたが、目立たぬけれど重要な伏線をきちんと拾い、いくつかのトリックを成立させていくさまは「なるほど!」と気持ち良く納得させてくれていやはや上手い(多少の強引さはむしろ新鮮ですらあるのです)。
一番のお気に入りは怪奇現象研究家のエミー・フォーブズ。こういった怪奇幻想ものに怪奇現象研究家って一番怪しげ?と思いがちですが、実は一番まともなのが彼女だったりして、彼女のいちいちの言葉に妙に納得してしまう。
ミス・フォーブズがスミス警部に(えっと、このスミス警部がシリーズのレギュラーであるようで、そうすると主役はスミス警部、になるのかな)語る言葉がいちいちごもっともで、もしかしたら彼女こそが探偵役にふさわしいのでは?と思ってしまったほど。
最後の最後まで凛とした言葉にハッとさせられたり。お気に入りキャラです。
読了日:2010年1月31日
【関連記事】
世界探偵小説全集リスト
【ノーマン・ベロウ作品リスト】
1.The Smokers of Hashish(1934)
2.Oil Under the Window(1936)
3.The Secret Dancer(1936)
4.It Howls at Night(1937)
5.One Thrilling Night(1937)
6.The Terror in the Fog(1938)
7.Fingers for Ransom(1939)
8.Murder in the Melody(1940)
9.Ghost House(1940)
10.Words Have Wings(1946)
11.The Three Tiers of Fantasy(1947)
12.The Singing Room(1948)
13.The Bishop's Sword(1948)
14.The Spaniard's Thumb(1949)
15.Don't Go Out After Dark(1950)
16.The Foorprints of Satan(1950) 『魔王の足跡』
17.The Eleventh Plague(1953)
18.Don't Jump,Mr.Boland!(1954)
19.The Lady's in Danger(1955)
20.The Claws of the Cougar(1957)
21.The Ghost House(1979) (9.Ghost House(1949)の全面改稿版)
⇒ ちづ (04/28)
⇒ 苗坊 (02/03)
⇒ かりさ (01/10)
⇒ タコ焼き (01/07)
⇒ かりさ (12/27)
⇒ みこ (12/25)
⇒ かりさ (12/09)
⇒ みこ (12/06)
⇒ みこ (12/05)
⇒ かりさ (12/01)